いすゞ自動車首都圏株式会社
2025年5月22日
更新日:

OJT制度を導入し若手が定着する職場へ。採用魅力もアップ、予想外の成果とは
トラック、バスの販売、中古車販売、自動車修理などを行うメーカー。1946年に創立し、いすゞ自動車株式会社、いすゞ自動車販売株式会社が供給する小型から大型のトラック、バスを主に取り扱う。産業用運搬車両の取り扱いもあり、それら中古車販売や修理も含めた事業を展開。東京、神奈川、千葉、埼玉、山梨に拠点を置き、首都圏を中心に販売を行う。
課題
若手層の離職が増加している
採用数が減少している
人を育てる文化が組織に根付いていない
施策概要
若手層へのOJT支援制度の構築・実行・内製化
組織風土醸成
アイデンティティー・パートナーズは、育成する文化醸成に向け、OJTの仕組みの企画・構築・導入・運用面でご支援(2021年から開始し2025年度も定常支援予定)。
成果
入社1年目の社員の退職率が低下した
採用ブランディングに寄与している
会社全体で「教育」に対する意識付けができた
新人教育にかかわる社員にも意識変化が見られ、スキル向上につながっている
企業が直面する大きな課題の一つである「若手の早期離職」。優秀な人材の流出は、企業の成長を阻害する要因となります。若手社員の定着は組織の活力維持にも欠かせません。
いすゞ自動車首都圏株式会社様は、2021年から若手層へのOJT施策に取り組まれています。本施策について、吉越 直樹 様(前教育部部長)、国分 秀貴 様(総務人事部)からお話を伺いました。
施策導入の課題・背景
若手社員の早期離職に危機感。OJT支援制度の内製化を見据えて初のコンサルティング導入
――若手層へのOJT施策を導入された背景について教えてください。
国分様:
若手社員の早期離職の対策を講じたい、というのが一番の理由です。
また、以前よりも採用がとれなくなってきたという課題もありました。
東京いすゞ自動車が神奈川いすゞ自動車と山梨いすゞ自動車を合併し、現在のいすゞ自動車首都圏株式会社となったのが2011年。そこから13年経ちましたが、特にエンジニアの採用人数はピークの半分近くまで減りました。
吉越様:
拠点によって若手の離職率に差があることも気になっており、離職率の高い拠点にメスを入れていきたいと思っていました。
でも当時は、拠点も会社自体も、若手の離職についてあまり危機感を持っていない様子だったんです。
離職の一つひとつを目の当たりにしている人事系の社員にはすでに危機感があったでしょうが、組織のボリュームが大きいこともあり、ある程度辞めてしまうのは仕方ない……といった風潮があったように思います。
本来、離職の可能性が高い若手社員のフォローは、同じ現場の先輩や上長が行うべきことなのですが、時代や世代の変化もあるのでしょうか。若い人たちは、大事なことも上長に相談しない傾向があります。一方で上長は、若手社員とのコミュニケーションに対する不安やハラスメントリスクを感じており、その結果、人事部門にフォローを任せる風潮ができてしまいました。
――そのような課題感をお持ちのなかで、弊社にコンサルティングを依頼いただいた決め手は?
吉越様:
教育部(現:人財開発部)が新設された当初(2021年)、私を含め、教育部のメンバーは教育のみに特化した経験が浅く、OJTを含む人材育成の専門知識が不足していました。そのため、人材育成や研修を専門とする外部企業から情報収集や提案を受けていましたが、自社に合った内容が見つからない状況が続いていました。コンサルタントに依頼したことはなく、当時はその発想自体がありませんでした。
しかし、アイデンティティー・パートナーズさんは、調査・企画の段階から丁寧に関与し、アンケート調査で現場の実態を可視化。そのうえで具体的なOJT施策を提案してくれました。
部署だけで運用を行うと難易度が高く、コストに見合った効果が見込めないと判断し、専門家であるアイデンティティー・パートナーズさんに支援を求めることにしました。

吉越様:
コンサルティング費はかかりますが、中長期的に内製化を見据えれば、離職防止やOJTの仕組みづくりへの一時的な投資は合理的と経営層に説明し、理解を得られました。経営層も、実績のある会社によるコンサルティングであるため承認しやすかったようです。
コンサルタントの関与によって、人財開発部メンバー自身のスキルアップも促進されると期待しています。専門家から継続的に最新の知見を学び、ノウハウを吸収できれば、人材育成における部署の専門性も高まるはずです。
担当プランナーより
【施策を考える上での背景にある考え方】
・新入社員を育成するには業務支援、内省支援、精神支援の3つの支援の側面が必要という前提
【役割】
・トレーナー…内製支援、精神支援を中心に担当
・ジョブ担当…業務支援を中心に担当
新入社員の育成に向けたOJT施策では、業務支援・内省支援・精神支援の3側面を重視します。5月から年度末の3月まで、トレーナー、ジョブ担当、課長が役割を分担。
育成計画はトレーナー・ジョブ担当・新入社員が共同作成し、1か月ごとに進捗を確認します。週次振り返りシートで内省を促し、経験学習サイクルに基づく成長を支援。
運営本部が月次で現場訪問や計画支援を行い、現場関与を強化。説明会や振り返りワークショップも実施し、実践度を向上させます。
本施策に感じる価値
若手だけでなく中堅社員の離職対策にも。採用競争力を高める効果も実感
――施策の実施にあたって、懸念点はありましたか?
吉越様:
当初、拠点でのOJTの受け入れ実績がなかったことには不安がありました。
また、経営層はOJTに即効性があると思っている節があったのですが、実際には費用対効果をすぐに数値化できるものではありません。経営層に対しては、離職防止に即効性はないかもしれないが、OJTの制度があることで採用における魅力となることを説明してきました。
国分様:
最近の新入社員は、マニュアルを求める傾向が強く、手順を追って丁寧に教えてほしいというニーズがあります。一方で、現場の担当者は忙しく、その要望に十分に対応できるのかという懸念もありました。
――本施策のスタートから約4年目。どのような成果が表れていますか?
国分様:
OJTの本格導入以降、新入社員の離職率が減少しました。
その理由としては、先輩社員のフォローアップによって、新入社員のスキル向上とキャリア形成のサポートが実現できたことが考えられます。定期的に面談の場を設けることで、不満や課題を早期に把握し、対応できるようになったことも一因でしょう。
また、OJTを通じて会社と社員の関係性が強化され、帰属意識が高まったことも離職抑制につながったようです。数値的な因果関係は確認が必要ですが、OJTが離職防止に一定の効果をもたらしたと考えています。

国分様:
また、採用ブランディングの強化にもつながりました。
採用活動時に会社の教育体制として新入社員のOJT制度をアピールできるようになり、良い影響を与えています。採用面接で志望理由をたずねた際に「OJT制度に魅力を感じた」と答えた学生さんも何名かいました。
反響を受けて、昨年から採用ページにもOJT制度の内容を掲載しました。
新入社員に対して手厚い研修を用意していることをアピールできれば、入社への期待値を高められると考えます。その分、私たちはその期待に応えられるように頑張らねば、と背筋が伸びる思いです。

いすゞ自動車首都圏 Recruiting Site より抜粋(2025年4月3日)
https://www.isuzu-syutoken.co.jp/recruit/environment/
吉越様:
OJTの取り組みによって、トレーナーと話す機会が増えたことも良かったようです。若手社員と中堅社員とのコミュニケーションの場も生まれました。
新入社員の育成はもちろん、ジョブ担当やトレーナーになった社員の成長も実感しています。たとえば、あるジョブ担当は、新入社員への具体的なフォローとして、1か月間実際の作業を見守り、「いまは時間効率よりも、作業に慣れることを重視しよう」と適切なアドバイスしていました。
新入社員が先輩に対してヒヤッとするような発言をしたのを横で聞いていたジョブ担当が、育成プランニングシートに基づいて、コミュニケーションの重要性を指摘したこともありました。
実は当初、その新入社員の性格が現場と合わないのでは? と心配されていたのですが、ジョブ担当やトレーナーをはじめとした先輩社員がうまくフォローしたおかげで、いまではうまく溶け込めています。
関係者全員が、しっかりと新入社員の育成に取り組んでいる姿勢が伝わってきて、嬉しかったですね。
――施策に関して、社員の方から予想外の反応はありましたか?
吉越様:
経営層が早期からこの施策を好意的に捉えてくれているように感じたのは予想外でした。離職防止策の必要性はわかっていたが具体的に実行できていなかったことを、実際に取り組んでいることで評価してくれているのかなと思います。
また、キャリア意識の高まりや、会社への過度な依存を避ける傾向が影響しているのか、以前よりも中堅社員の会社離れが顕著になってきています。そのため、中堅社員の離職への対策としても、OJTを通じて自己成長を重視する文化の醸成が重要です。
生産性向上や効率化が限界に達し、給与が伸び悩むなかで、優秀な人材ほど別の選択をする可能性もあります。OJTの取り組みを通じて、このような課題に対する理解を深めることもできました。
国分様:
エンジニアは普段あまり話さない人が多いのですが、今回話を聞く機会を設けたら、たくさんの思いを吐露してくれました。
これまで「組織は自分の意見を聞いてくれないだろう」と消極的になっていた社員も、個別に話をする機会ができ、私たちがその意見を真剣に受け止めたことで、もっと発言していこうという意欲が出たようです。
また、人事部門としては、離職リスクについて早期の情報共有と対応が可能となり、退職に至る前に異動などの対策を講じられるようになってきています。会社が変化し、離職リスクを前提とした対応をとれるようになってきた点は大きな変化です。

今後の取り組み
OJT施策の強化と周知が必要。中長期的な視点で社員の人間性育成に取り組みたい
――今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか?
国分様:
現状、OJT施策への取り組みには拠点や個人間で温度差があり、新人教育の関与の程度にばらつきが見られます。今後はどの現場でも十分な人材育成が行われるよう、現場の上長らに対してOJT施策の意義を伝え、協力を求めていくことが重要だと考えています。
吉越様:
本施策は人財開発部主導だと思われがちで、現場でやるものだという認識がいまだに浸透し切っていない面があります。そのため、今後は社内報をはじめとした広報活動を通じて現場やOJT担当者への周知・啓蒙を図っていきたいです。
OJT担当者のモチベーションを高めるための仕組みづくりも重要だと思います。OJTの教育担当を経験した社員が管理職になるようなルートができれば、生産性だけでなく育成の視点も持ってくれるようになると期待しています。

吉越様:
私は支店長だった時代から、中長期的な視点での人材育成の重要性を痛感してきました。それは人財開発部に籍を移した現在も同じで、単に数字や実績を重視するだけでなく、部下一人ひとりの人間性や将来のキャリアを見据えた育成を心がけています。
社員が社会人・職業人としてふさわしい人間性を身につけるために、今後もスキル教育に留まらず、人間性豊かな社員の育成を重視していきたいです。
担当プランナーからのメッセージ
本施策は、一定の型を用いて現場教育を推進し、新人育成を業務支援・内省支援・精神支援の3側面から支援する取り組みです。
当初、現場からは短期的な売上目標や計画台数達成への優先度が高く、型を用いた新人育成に対する負担や抵抗感が見られました。
3年間を通して、育成が将来的な目標達成につながることを繰り返し説明し、現場での実践度合いを高める努力を重ねたり、現場の声を聴き、仕様の微調整を行ったりしながら施策の精度を向上させた結果、新人の方々からは、先輩との関係性への寄与や自身の成長につながっている等の声が寄せられました。
今後は、現場への定着支援を強化して、いすゞとして現場教育が組織の強みであり文化であるというところまで達することができるよう支援していきたいと思います。