総研コラムでは、わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)(WMSC)の研究員らが「企業で働く個人のユニークネスと組織のオリジナリティを最大限に発揮する」ためのヒントとなるような知見や情報を提供します。
私たちのビジネス環境は、急速な技術革新、グローバル化、そして市場の変動によりかつてないほど複雑化しています。企業は日々進化する技術に対応し、競争力を維持するために迅速かつ柔軟な意思決定が求められています。
それに加えて、リモートワークやハイブリッドワークと呼ばれるような従業員の働き方の変化によって、個々が職場から物理的に離れて働くケースが増加し、組織内のコミュニケーションのあり方も大きな変革を迎えています。
こうした時代背景の中で、組織のパフォーマンス向上に影響を与えるコミュニケーションはますます重要度を増しています。特に職場では、多忙な日々に追われると、コミュニケーションの質や量も減りがちです。では、組織でどのようなコミュニケーションが求められるのでしょうか。
(執筆者:WMSC副センター長・頼木 康弘)
【 目 次 】
1. 情報の伝達と共有
2. 意思決定の支援
3. 信頼関係の構築
4. 問題解決と対立の解消
5. チームワークの促進
6. 企業文化の醸成
社内コミュニケーション不足による業務障害の内容
HR総研の「社内コミュニケーションに関するアンケート結果報告」(2023年1月実施の調査)によると、社内のコミュニケーション不足で悪影響を受ける業務の上位の3つ(従業員数別の合計)が以下の内容でした。
1.迅速な情報共有(45%) 2.部門間・事業所間の連携(30%) 3.部署内のチームビルディング(25%)
出典:HR総研「社内コミュニケーションに関するアンケート結果報告」
この調査結果から、迅速な情報共有、部門間・事業所間の連携、そして部署内のチームビルディングが主な課題として挙げられています。これらの問題を解決するためには、単なる情報伝達だけでなく、質の高い複雑なコミュニケーションが求められます。
今日の複雑で変化の激しいビジネス環境では、情報の伝達と共有が円滑に行われることは、組織の成長と競争力に不可欠です。そのように組織はより高い成果を求められる中、上司と部下の1on1の時間を義務化する、経営陣と従業員の対話の時間を頻繁にとるなど、積極的に動き始めています。
しかし、上司や部下、同僚同士など、ただやみくもに社内のコミュニケーションを増やせば良いものでしょうか。
仕事におけるコミュニケーションの6つの目的
最初に、仕事のコミュニケーションの目的として考えられる6つの目的について考えてみたいと思います。
1. 情報の伝達と共有
必要な情報を迅速かつ正確に伝えるための基本です。これにより、従業員は業務を効率的に遂行するために必要な情報を手に入れることができます。
2. 意思決定の支援
意思決定を促し、適切な行動を取ることができます。意見交換やディスカッションを通じて、より良い意思決定が可能になります。
3. 信頼関係の構築
透明性があるコミュニケーションは、信頼関係の構築に寄与します。従業員が会社や上司を信頼していることが、エンゲージメントやモチベーションの向上につながります。
4. 問題解決と対立の解消
問題を迅速に特定し解決するための手段です。対話を通じて、誤解や対立などの争いを未然に防ぐことができます。
5. チームワークの促進
チームメンバー間の協働を促進し、チームワークをさらに強化します。これによりチーム全体の生産性が向上します。
6. 企業文化の醸成
企業文化を形成し、維持するための重要な要素です。従業員が企業のミッションやビジョンを理解・共感することで、組織全体の一体感が生まれます。
これらのコミュニケーションは、お互いが発言することで生まれる質の高い対話がいかに重要であるかということを考えさせてくれます。質の高い対話は、単なる情報交換を超えて、相互理解を深め、信頼関係を築く手段です。これにより、組織内の問題解決能力が上がり、チーム全体のパフォーマンスが向上します。
対話で変わる組織の未来
エドガー・シャインはその著書『組織文化とリーダーシップ』の中で、「リーダーシップは基本的に、文化的に共有された意味を創り出す過程であり、その中心には対話がある」と述べています(Schein, 2010)。
つまり、対話を通じてリーダーとメンバーが共有する価値観やビジョンを形作ることで、組織全体の方向性が定まり、組織力が強化されます。
またハーバード・ビジネス・レビューによると、「質の高い対話は、従業員のエンゲージメントを高め、創造的なアイデアを引き出す鍵である」とされています(Harvard Business Review, 2013)。
対話を通じて、従業員は自分の意見が尊重され、組織に貢献していると感じることができるため、モチベーションが向上します。
ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン (Amy C. Edmondson)の研究では、質の高い対話が行われた場合には、従業員のエンゲージメントが平均で20%以上向上し、仕事の満足度も15%以上向上するというように具体的な数字で表わしています。
対話を重視することで、組織はより柔軟で適応力のある体質を持つことができます。対話により、異なる意見や視点が取り入れられることで、変化に対応する力が強化されるのです。
ピーター・センゲは『学習する組織』の中で、「真の学習は対話を通じてのみ達成される」と述べています(Senge, 1990)。学習する組織は、対話を通じて継続的に成長し、進化することができます。
このように、質の高い対話は組織の成功にとって不可欠な要素です。単なる情報の伝達を超えて、深い理解と信頼関係を築くことが、今日の複雑なビジネス環境で組織を競争力のあるものにします。質の高いコミュニケーションを推進することで、私たちはより柔軟で強いチームや組織を構築できるのです。
組織にとって、その場にとって、有効なコミュニケーションとは何か、さらにそのコミュニケーションはどうつくり上げていくのか、私たちは組織のコミュニケーションについて、さらに研究を進めていきたいと思います。
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参考文献
HR総研「社内コミュニケーションに関するアンケート結果報告(2023年1月)」
Schein, E. H. (2010). Organizational Culture and Leadership. Jossey-Bass.
Harvard Business Review. (2013). Employee Engagement and Quality Dialogue. Retrieved from Harvard Business Review.
Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
Senge, P. M. (1990). The Fifth Discipline: The Art and Practice of the Learning Organization. Doubleday.
▼この記事を書いた人
頼木 康弘(よりき やすひろ)
「わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)」
副センター長/専任講師/コーチ/コンテンツデザイナー
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