最近、ビジネスシーンでよく耳にする「対話」という言葉ですが、対話とはそもそも何か、会話やディベートと何が違うのかよくわからない、という人も多いと思います。
人事部など組織開発を担当する人のなかには、新しい組織論として注目されている「対話型組織開発」とは何なのか、気になっている人もいるかもしれません。
今回の記事では、対話とは何か、今組織に必要とされている理由・対話を効果的に行うための3つのメソッドなどについて解説します。
あわせて、対話型組織開発や組織内で対話を実践するためのポイントなどについても紹介します。
【 目 次 】
なぜ組織にとって対話が必要なのか?
対話は組織にとって極めて重要な要素です。組織内外の関係者との対話を通じて、情報の共有や意思疎通が円滑に行われ、効果的な意思決定や問題解決が可能となります。
さらに、対話は単なる一方的な情報伝達ではなく、双方向のコミュニケーションを促し、関係の構築や信頼の醸成にも寄与します。
組織内での対話は、部門間や階層間のコラボレーションを促進し、チームの連携や効率を高める役割を果たすほか、社員同士や上司と部下の間での対話は、モチベーションの向上や仕事の質の向上につながります。
さらに、組織のビジョンや価値観を共有するための対話は、メンバーの結束力を高め、組織文化の形成にも影響します。
また、組織と外部のステークホルダーとの対話は、顧客のニーズや要求に対応するための重要な手段です。顧客との対話を通じて、商品やサービスの改善点や新たなニーズを把握し、顧客満足度を向上させることができます。
同様に、取引先やパートナー企業との対話は、信頼関係の築き方や共同事業の成功に不可欠です。
組織にとって対話は単なるコミュニケーション手段ではなく、戦略的な活動として位置づけられるべきです。対話を重視することで、情報の共有や意思決定プロセスの透明性が高まり、組織全体のパフォーマンスや成果を向上させることができます。
そのため、組織は対話を奨励し、適切な環境やツールを提供することが重要です。
対話ができない理由
組織にとって対話が重要であると分かっていても、どうやって対話を始めたら良いかわからない、対話したくてもできない、と感じる人もいるでしょう。
対話がうまくできない場合には、たとえば、以下のような理由が考えられます。
目的やゴールが明確になっていない
組織内でのコミュニケーションに問題がある
対話の必要性が共有されていない
目的やゴールを明確にせず、ただいきなり対話しようとしてもうまくいきません。
対話は単なる会話とは違います。会話は特に目的を設定せずに少人数で話し合うことですが、対話はお互いの価値観や立場・思考のフレームワークなどを共有するために目的やテーマを設定して話し合うことです。
組織内で会話がほとんどない、組織が硬直的で発言しづらい雰囲気があるなど、組織内でのコミュニケーションに問題がある場合は、対話の機会をもうけても望ましい結果にはならないでしょう。
対話によって組織の雰囲気が良くなる効果も期待できますが、最低限、メンバーが率直な意見を口にしても大丈夫という安心感がないと、対話が機能しません。
対話の必要性が組織内で共有されていることも大切です。
人事部といった外部組織や管理職だけが対話の必要性を理解していても、組織のメンバーがよくわからず無理やり参加しているような状態では、効果的な対話はできません。
対話の成果を引き出すには、組織のリーダーだけでなくメンバーの一人ひとりが対話のメリットや必要性を理解しておく必要があります。
対話型組織開発とは
対話型組織開発とは、対話プロセスを取り入れた組織開発の手法の一つです。
アメリカの大学で組織開発を専門に研究しているジャルヴァース・R・ブッシュとロバート・J・マーシャクの共著『対話型組織開発―その理論的系譜と実践』(原題:Dialogic Organization Development: The Theory and Practice of Transformational Change)で提唱され、2018年に日本語訳が出版されて以来、新しい組織開発のコンセプトとして注目されています。
対話型組織開発は、トップダウンで一方的な指示や方針を押し付けるのではなく、組織内のメンバー全員がオープンなコミュニケーションを通じて知識や意見を共有することで、組織を活性化します。
対話型組織開発と診断型組織開発の違い
対話型組織開発は、従来の診断型組織開発とよく比較されます。対話型組織開発と診断型組織開発の大きな違いは、組織開発の視点と仕組みを組織の内部に置くか、それとも外部に置くかの違いです。
従来の診断型組織開発では、人事部やコンサルタントなど組織の外部が組織の診断を行い、客観的な指標やアプローチを使って組織開発を行っていきます。
一方、対話型組織開発は、組織のメンバーが対話のメソッドを使って組織の課題抽出や改善策の検討を内部から進めていく手法です。
診断型組織開発には、外部からスムーズに取り入れやすく客観的な指標でわかりやすいというメリットがある一方、現場の状況や意識との乖離が起きやすいというデメリットがあります。
対話型組織開発は、メンバーが自発的に行うことで組織の活性化や風土醸成につながる点が大きなメリットですが、導入するのに時間がかかる点、経営サイドなどから客観的に効果を測るのが難しい点などがデメリットです。
従来の診断型組織開発はダメ、これからは対話型組織開発を選ぶべき、というわけではありません。
それぞれのメリットとデメリットを理解して、効果的に使い分けることが重要です。
対話型組織開発が注目される理由
対話型組織開発が近年になって注目されている理由としては、大きく以下のような理由が考えられます。
ICTの発達や働き方の変化により職場内のコミュニケーションが難しくなっている
職場のダイバーシティが進み、従来の管理手法が通用しにくくなっている
コロナ以降、大企業を中心にテレワークや在宅勤務などが普及し、職場の全員が同じ時間と場所に集まって集団で業務を行う機会が減ってきています。
対面のコミュニケーション時間が減少し、新しい働き方やツールが増えていくなかで、職場内で新しいコミュニケーションの方法や機会が求められています。
HR総研のアンケートでは、7割以上の企業が「自社の社内コミュニケーションに課題あり」と回答しており、組織内のコミュニケーション力をアップさせる手段として、対話が注目されているのです。※
さらに、職場でのダイバーシティが進み、バッググラウンドの違う人間同士が協力し合って業務を遂行する機会が増えています。
言語・国籍・年齢・性別・信仰などが異なる多様な人材をまとめるには、従来の画一的なトップダウン方式の管理手法とは違ったアプローチが必要です。
労働力不足の日本では、今後もさらに職場のダイバーシティは進んでいくと考えられ、社内の対話を増やしメンバーの相互理解を深めることができる対話型組織開発の手法が注目されています。
対話とは何か?対話のメソッドを構成する3つの要素
対話とは単なる一方的な情報伝達ではなく、相互理解を深めるためのコミュニケーション方法です。
しかし、「議論」や「会話」と何が違うのか、適切な対話を深めるにはどうしたら良いのかわかりにくい、と感じている人も多いでしょう。
対話とは何かを具体的にイメージしやすくするために、わたし・みらい・創造センターで考察された「対話のメソッド」の構成要素3つをご紹介します。
わたし・みらい・創造センターで考察された「対話のメソッド」は、組織の推進力や創造性につながる対話を実現するために必要な条件を定義したものです。
「対話のメソッド」は、以下の3つの要素で構成されており、これらが機能することで意味の深まりや現場の推進力・創造性の向上が期待されます。
意識づくり
能力づくり
環境づくり
1. 意識づくり
意識づくりでは、対話のゴールやテーマを明確に定めることが重要です。参加者が共有する対話のテーマや、対話によって期待する状態を明確にすることで、対話の方向性を明確化します。
また、対話の役割も確認し、話し手と聴き手、アドバイス役などの役割を明確にすることが重要です。複数人で行われる場合には、対話ファシリテーターが役割を果たすことが必要です。
さらに、対話の進行におけるルールを合意し、感情の共有、積極的な参加、違いの尊重、発言には理由があることなどを取り決めます。
2. 能力づくり
能力づくりでは、対話を効果的に行うための技術を磨くことが重要です。
話し方には、わかりやすく説明するための技術が含まれます。フィラー(あいまいな表現)、コネクティブ(接続語)、サブジェクト(責任主語)の使用などが効果的です。
聴き方では、違いや共通点を理解するための技術を開発します。傾聴(アクティブリスニング)や質問(意味の確認)などが重要です。
また、繋ぎ方では、意味を発展させるための技術を磨きます。ポリフォニー(話の繋ぎ合わせ)を行うことで、対話の流れを促進します。
3. 環境づくり
環境づくりでは、対話が円滑に進む環境を整えることが重要です。
心理的安全性を確保し、話しやすい雰囲気をつくります。全員が参加しやすくなるように発言の偏りを整え、発言機会を均等にします。
また、前向きな雰囲気を醸成し、現状の雰囲気を確認しあうことも重要です。対話する組織の推進を図るためには、多面的な視点を持つことも必要です。自己、他者、社会の視点を切り替えながら物事を考え直すことが求められます。
対話の途中で自由に考えや疑問を出し合う環境を整えることも重要です。
これらの意識づくり、能力づくり、環境づくりの要素が組織内で機能することで、対話を通じて意味の深まりや現場の推進力・創造性の向上が期待されます。
組織がこれらの条件を整えることで、対話を活用したより良い結果を生み出すことができるでしょう。
対話を実践するためのポイント
対話を実践するためのポイントとしては以下のようなことが挙げられます。
第三者が対話できる機会や場をつくる
組織のリーダーが対話スキルを学ぶ
組織内で対話しやすい環境・雰囲気づくりをする
組織内で対話を効果的に実践するためには、本来組織が行っている業務のリーダーや利害関係者ではない第三者が、対話するための機会や場を設定すると良いでしょう。
また、せっかく対話の機会をもうけても、上司や管理職が高圧的な態度で発言すると他のメンバーは率直な意見が出しにくくなってしまいます。
組織のリーダーが、対話の必要性や具体的な対話スキルを学ぶことも重要です。対話を有効に実践するためには、組織内の全メンバーが自分の意見を率直に言える心理的安全性が確保されている必要があります。
普段から、組織内で対話しやすい環境や雰囲気づくりを行うことも、対話を実践するために重要なポイントといえるでしょう。
【まとめ】対話に必要な意識・能力・環境づくり
組織にとって対話が必要とされる理由や、対話型組織開発の考え方、対話を実践するためのメソッドなどを紹介しました。
組織内で対話がうまくいくようになるためには、意識づくり、能力づくり、環境づくりの向上などが必要です。これらの条件を整えることで、対話を通じてより良い結果を生み出すことができます。
▼監修者 佐藤 純子(さとう じゅんこ) 「わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)」 センター長 |
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