2024年度に入り、経済産業省によるリスキリング支援策の延長の決定や、厚生労働省による中小企業向けの補助金制度の開始など、リスキリング支援策の拡大傾向が強まっています。
リスキリングという言葉をよく耳にするようになったけれど、なぜ必要なのか?具体的に何を学ぶべきなのか?疑問に思われている方もいるかもしれません。
本記事では、リスキリングとはそもそも何か、なぜ今必要と言われているのかを解説します。リスキリングで取得すべきスキルや資格、そのために活用できる助成金制度などについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
【 目 次 】
リスキリングの定義
リスキリングが必要とされている背景
リスキリングとリカレントの違い
企業におけるリスキリングの必要性
個人にとってのリスキリングのメリット
DX時代に必要なスキルとは
これから必要とされるスキルや資格
リスキリングで取得したスキルの使い方
厚生労働省の助成金・補助金制度
経済産業省の助成金・補助金制度
リスキリング支援制度や無料ツールを活用する
リスキリングとは?なぜ今必要なのか?
リスキリングとは、社会人が業務上必要とされる新しいスキルを学び直すことです。
日本国内でも、経済産業省や厚生労働省などがリスキリング支援制度や助成金制度を始めており、注目度が高まっています。
リスキリングとは何か、なぜ今必要とされているのか、リスキリングの定義やリカレント教育との違いなどについて解説します。
リスキリングの定義
リスキリングとは、新しいスキルや知識を習得し、業務の変化や新たな役割に対応するための再教育を指します。
リスキリングの語源は英語の「re-skilling」で、「再び」を意味する「Re-」と「技能」を意味する「Skill」を組み合わせた言葉です。つまり技能や知識の習得・向上を繰り返して行うのがリスキリングの元々の意味になります。
経済産業省主導のワーキンググループ「デジタル時代の人材政策に関する検討会」報告書では、リスキリングについて以下のように定義しています。※
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」 |
※参考:経済産業省/METI|デジタル時代の人材政策に関する検討会2021年2月26日開催資料
リスキリングが必要とされている背景
リスキリングが必要とされている背景には、主に次のような理由が挙げられます。
急速に進むDXへの対応
競争のグローバル化やAI時代への対応
労働力不足と人的資本経営の重要性
昨今のビジネス環境では急速にDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進んでおり、対応できるITスキルを持った人材の育成・確保が企業側にも急務となっています。
加えて、市場競争のグローバル化やAIの台頭などにより、語学・国際労務や法務、ITスキルなど、今までにない新しいスキルを持つ人材が求められているのです。
さらに、日本の企業は少子高齢化による慢性的な労働力不足という大きな課題を抱えています。従業員の能力やスキルを最大限に生かすために「人的資本経営」への関心が高まっています。
人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方です。
経済産業省は、人的資本経営に関わる指針として「人材版伊藤レポート」を公表しており、人的資本経営の一環としてリスキリングの必要性を強調しています。
人的資本経営や「人材版伊藤レポート」などについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
リスキリングとリカレントの違い
リスキリングとよく似た言葉に「リカレント」がありますが、リスキリングとリカレントにはどのような違いがあるのでしょうか。
リカレントの語源は英語の「recurrent」で、「循環する」「繰り返す」といった意味があります。従来の学校教育を修了してから就業し、そのまま仕事だけをし続けるのではなく、社会人になってからも必要に応じて教育を何度でも繰り返して受けるのがリカレント教育です。
リカレントは一般的な学びの意味を含むのに対し、リスキリングは職業的な価値を高めるための実践的なスキル習得を指す、という点に違いがあります。
リスキリングが必要な理由とそのメリット
近年、技術の進化や働き方の変化が急速に進んでおり、企業や個人においてリスキリングが必要不可欠なものとなっています。
ここでは、企業と個人の双方にとってのリスキリングの必要性とメリットについて説明します。
企業におけるリスキリングの必要性
企業がリスキリングに取り組む理由としては、以下のようなものが挙げられます。
デジタル化・技術革新への対応
人材不足の解消と内部育成
企業の持続的成長と競争優位性の確保
順番に解説していきましょう。
デジタル化・技術革新への対応
現在、多くの業界でDXが急速に進んでいます。企業が競争力を維持し、市場での地位を確保するためには、従業員が最新のデジタルスキルを持つことが不可欠です。
リスキリングにより、従業員が新たな技術に対応できるようにすることで、企業は迅速に変化に対応し、成長を持続できるでしょう。
人材不足の解消と内部育成
特に、専門的なスキルを持つ人材の不足が多くの企業で問題となっています。
外部から人材を採用するのではなく、既存の従業員に新しいスキルを習得させることで、企業は内部から必要な人材を育成できます。これにより、採用コストの削減や既存従業員の定着率向上が期待できます。
企業の持続的成長と競争優位性の確保
市場の変化や顧客ニーズに柔軟に対応できる企業は、競争優位性を保つことができます。リスキリングを実施することで、従業員が常に最新の知識やスキルを身につけ、企業の持続的な成長を支えることが可能です。
結果として、人材不足の解消や業務効率の向上につながり、企業全体の成長を促進します。
個人にとってのリスキリングのメリット
リスキリングを行う個人のメリットはどんなところにあるでしょうか。
個人にとってのリスキリングのメリットを3つ解説します。
キャリアの安定と成長
転職市場での競争力向上
自己成長とモチベーションの向上
キャリアの安定と成長
技術革新や業務の変化が進む現代において、従来のスキルだけでは通用しなくなる場面が増えています。リスキリングによって新たなスキルを習得することで、変化に対応できる能力を身につけ、自分の市場価値を高められるでしょう。
リスキリングでこれから必要とされるスキルを習得しておけば、キャリアの安定性が向上し、さらなる昇進やキャリアアップのチャンスが広がります。
転職市場での競争力向上
転職市場では、企業が求めるスキルが時代とともに変化しています。リスキリングを通じて最新のスキルを身につけることで、転職活動において他の候補者との差別化ができ、より魅力的なポジションや待遇を得られる可能性が高まるでしょう。
特にITスキルやデジタル知識は多くの業界で高い需要があり、これらのスキルを身につければ、キャリアアップや転職で有利となる可能性が高いでしょう。
すでに、経済産業省ではリスキリングによるキャリアアップ支援事業を導入しています。リスキリングの転職への生かし方、転職支援制度などについて興味がある方は、以下の記事も参考にしてください。
自己成長とモチベーションの向上
新しいスキルや知識を習得することは、仕事へのモチベーションややりがいを高める効果があります。リスキリングにより自己成長を実感することで、仕事に対する意欲が向上し、より充実したビジネスライフを送れるでしょう。
また、成長することで新たな業務に挑戦する機会も増え、キャリアの幅が広がります。
リスキリングで何を学ぶか
リスキリングが必要な理由はわかりましたが、実際に何を学ぶのがよいのでしょうか。
ここでは、リスキリングで人気のスキルや資格、取得したスキルの使い方などについて解説します。
DX時代に必要なスキルとは
近年DX推進に取り組む企業が増えるなか、高度な専門性を持ったデジタル人材を獲得する戦略として、「リスキリング」の必要性を重視している企業が増えています。
HR総研が行ったアンケートによると、IT関連のスキルでは、データ分析や統計に加え、AIスキルなどのニーズが高まっています。※
ストリートアカデミー株式会社が公表したアンケートでは、会社員がリスキリングしたいスキル第1位の「AI・機械学習」、ついで第2位「python」、3位「Zoom」、4位「データサイエンス」「アートデザイン思考」という結果です。※※
従来のプログラミングスキルだけでなく、Web会議ツールやSNSマーケティング、データサイエンスなど、DXの進展につれて必要なITスキルが変化していることがわかります。
これから必要とされるスキルや資格
厚生労働省は、35歳以上のデジタル職種未経験者を対象にしたデジタル職種への就業支援として「デジタル人材育成のための『実践の場』開拓モデル事業(エントリー~ミドルモデル)」のサイトを公開しています。
厚生労働省のサイトによると、今後リスキリングで取得すべきスキルとして以下のものが挙げられています。
プログラミング
マーケティング
データ分析・統計解析
語学
情報セキュリティ
動画編集
マネジメント
AI・機械学習
ITスキル以外では、マーケティング・語学・情報セキュリティ・マネジメントなどのスキルが必要とされていることがわかります。
スキルを習得する方法として、さまざまな資格取得を検討している人も多いでしょう。新しいスキルの習熟度については客観的に判定が難しいことがありますが、一定の資格を取得していれば、キャリアアップや転職時のアピール材料にもなります。
厚生労働省のサイトに掲載されている、リスキリングでおすすめの資格は以下のとおりです。
TOEIC
ITパスポート
VBAエキスパート
プロジェクトマネージャー試験
マーケティング検定
MOS
Phyton3 エンジニア認定基礎試験
Phyton3 エンジニア認定データ分析試験
中小企業診断士
MBA(経営学修士)
このうち、ITパスポート、プロジェクトマネージャー試験、中小企業診断士は国家資格で、そのほかは民間資格です。
独学で取得可能なものから専門のスクールや大学院などの受講が必要なものまでさまざまですので、興味があるものがあれば資格団体のサイトなどで調べてみましょう。
また、これらの資格は、資格取得費用として厚生労働省や経済産業省から一部助成金や補助金が出ることがあります。詳しくは「リスキリングに関する助成金・補助金制度の事例と使い方」の章で説明しますので参考にしてください。
リスキリングで取得したスキルの使い方
リスキリングでスキルを取得した後、どのように生かしていくのがよいでしょうか。
リスキリングで取得したスキルの使い方としては、主に以下の3つが考えられます。
社内でのキャリアアップ
転職
副業や起業
リスキリングで得たスキルは、社内でのキャリアアップに大いに役立ちます。企業のなかにはスキル習得を昇進や昇格の条件としているところもあります。企業内でスキルを生かすことで、より高い役職や責任あるポジションに就くことが可能になり、キャリア全体の発展につながるでしょう。
転職を視野に入れている人にとっても、リスキリングで得たスキルは大きな武器となります。特にDXスキルやデータ分析スキルなど、需要の高いスキルは転職市場で高く評価され、より好条件のポジションへの道が開ける可能性があります。リスキリングにより得た専門知識を生かし、異業種へのキャリアチェンジを成功させることも十分可能です。
リスキリングを通じた転職のポイントや支援制度について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
リスキリングで身につけたスキルは、副業や起業に活用することも可能です。デザインやプログラミング、デジタルマーケティングなどのスキルは、フリーランスや副業として収入を得る手段としても役立ちます。
リスキリングに関する助成金・補助金制度の事例と使い方
リスキリングの必要性が高まるなか、官民挙げてさまざまな団体がリスキリング支援策を実施しています。こうした制度をうまく活用することで、学習のための経済的負担を軽減できるでしょう。
ここでは、厚生労働省や経済産業省が提供する助成金・補助金制度の概要と、リスキリング支援に役立つ無料ツールについて解説します。
厚生労働省の助成金・補助金制度(2024年11月現在)
厚生労働省では、リスキリングに活用できる「教育訓練給付制度」を設けています。この制度は、指定された教育訓練を受講・修了した場合に、費用の一部を支給するものです。
対象講座は全国で16,000件以上あり、ITスキルや介護、マネジメントなどさまざまな分野がカバーされています。また、受講内容や対象者によって、一般教育訓練給付金や専門実践教育訓練給付金など、給付率や支給上限額が異なります。
たとえば、専門実践教育訓練給付金では最大で教育費用の70%が支給されるため、リスキリングを始めやすくなっています。
※参考:厚生労働省|教育訓練給付制度
経済産業省の助成金・補助金制度(2024年11月現在)
経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、受講者がリスキリング講座の受講やキャリア相談、転職支援を受けられる制度です。
リスキリング講座の受講料は、経済産業省が負担するため、受講者はコストを抑えて学習できます。
また、受講終了後に転職を実現し一定期間働き続けた場合、追加の補助金が支給される仕組みです。
ITや医療、語学など多分野にわたる講座が対象で、公式サイトから登録事業者を検索し、必要なスキルに応じて選べるようになっています。
※参考:リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業|転職をご検討の方
リスキリング支援制度や無料ツールを活用する
厚生労働省や経済産業省以外の地方自治体や公共団体でも、リスキリング支援制度を提供しています。
たとえば、大阪府では、大阪府民で厚生労働省の教育訓練給付金制度に該当しない人を対象として職業訓練費用の一部を助成するスキルアップ支援金制度を実施しています(2024年11月現在)。※
お住まいの役所やハローワークなどで情報を入手できますので、確認してみましょう。
さらに、リスキリングに役立つ無料ツールや講座も数多く提供されています。
たとえば、日本リスキリングコンソーシアムは、1,400以上のプログラムから条件に合ったトレーニングプログラムに申し込むことができ、トレーニングプログラムには無料講座も多く用意されています。就職支援サイトへのエントリーやパートナー企業の採用情報の紹介情報を入手することも可能です。
また、UTokyo OpenCourseWareやJMOOCなどのサイトでは、教育機関が提供する質の高い講座動画を無料で視聴できます。※※
いきなり高額な講座を受講するのに不安がある場合、まずはこうした無料ツールで基礎スキルを身につけ、自分に合ったリスキリング内容を見極めるのもよいでしょう。
リスキリングに役立つ無料講座や動画のサービスについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
※参考:大阪府(おおさかふ)ホームページ|大阪府スキルアップ支援金について
※※参考:
・日本リスキリングコンソーシアム
・UTokyo OpenCourseWare
・JMOOC
【まとめ】今まさにリスキリングが必要とされている
リスキリングが必要な理由やメリット、何を学ぶべきかなどについて解説しました。
DXや人材不足が進行するなか、リスキリングで企業が必要とするスキルを身につけることで、キャリアアップや転職に有利になることが期待できるでしょう。
リスキリングの必要性が高まるのにあわせ、経済産業省や厚生労働省、地方自治体などがさまざまな助成金制度や支援策を実施しています。
働きながらリスキリングをするのは大変ですから、こうした支援策や民間の無料ツールなどを賢く利用するようにしましょう。
ビジネス環境の変化が激しい昨今では、ITスキルやコミュニケーションスキルなど、必要とされるスキルや人気の資格も変わってきています。
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