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人的資本とダイバーシティの関わりとは?人的資本経営にとってダイバーシティ&インクルージョン (D&I)はなぜ必要か

更新日:8月1日



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人的資本経営とD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)、どちらも最近よく耳にする言葉ですが、企業にとってなぜ必要なのでしょうか。


「なんとなくはわかっているつもりでも答えるのは難しい」「そもそもダイバーシティや人的資本経営の意味が抽象的でわかりにくい」と感じている人も多いと思います。


この記事では、人的資本経営とはどのような考え方なのか、なぜ人的資本経営とダイバーシティ推進が必要とされるのか、などについてわかりやすく解説します。


日本企業の人的資本経営戦略の柱とも言える「人材版伊藤レポート」についても説明し、具体的な企業の取り組み事例やポイントとなる視点などを紹介しますので、参考にしてください。


 

【 目 次 】

 

人的資本経営とダイバーシティ&インクルージョン (D&I)


資料を確認している社員2人

人的資本経営とは、簡単に言うと、人材を資本として捉える考え方です。


人的資本経営とダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは密接な関わりがあります。


そもそも人的資本経営が注目されるようになった背景には、労働力不足や人材市場の多様化など、企業におけるダイバーシティ&インクルージョンが求められている原因と重なっている部分が多いからです。


多様な人材を資本として上手に活用するには、各々の個性や特徴に配慮した経営=ダイバーシティ&インクルージョンが欠かせないと言えるでしょう。


経営や人事に携わる人は、今後の経営方針やイノベーション創出にとって重要な鍵となる人的資本とダイバーシティの考え方を学んでおく必要があります。



人的資本経営とはどのような考え方か


工場のジャケットを着た3人の従業員

人的資本経営とはどのような考え方なのか、経済産業省HPに掲載されている定義を引用してみましょう。

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。 引用元:経済産業省HP人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~

人材を資本として捉える考え方は、経済学で「Human Capital」と定義され、古くからありましたが、従来は個人的な職能や技能を経済的価値として評価することにとどまっていました。


人的資本をこのような考え方から大きく前進させる一つのきっかけとなったのが、2001年にOECDが発表した『The Well-being of Nations』というレポートです。このレポートにより、人的(および社会的)資本の経済的価値のインパクトの大きさや重要性が注目され始めました。※


2018年にはISOが人的資本に関わる情報開示ガイドライン「ISO30414」※※を定め、人的資本経営は、企業内外のステークホルダーからの評価を高めるための指標として世界的に重要度が増しつつあります。



人的資本経営が注目される理由


人的資本経営が注目される理由としては、以下のようなものがあります。


  1. 労働力の減少と労働市場の多様化

  2. 人的イノベーション創出

  3. 国際的な評価の高まり


労働力の減少と労働市場の多様化

国内では少子高齢化に伴い、労働人口が頭打ちとなり、人材獲得競争が激化しています。さらに、女性や高齢者、外国人など人材の多様化・働き方の多様化も進んでおり、従来の画一的な人事管理のあり方を見直し、多様な人材の価値を最大限に引き出すための人的資本経営が求められているのです。


人的イノベーション創出

AIやITテクノロジーの進化により、企業は今までのようなコストカットや技術力だけでは競争に勝つのが難しくなってきています。イノベーションの創出が必要とされている中、AIやITテクノロジーでは代替できない付加価値を生み出す人的資本経営が注目されています。


国際的な評価の高まり

人的資本経営の国際的な評価の高まりも重要なポイントです。持続可能な社会を実現するための取り組みSDGsの中では、目標8として「働きがいも経済成長も」を掲げており、ダイバーシティ推進や人材への投資など人的資本経営に関わる項目があります。


すでに説明したように、ISOが人的資本に関わる情報開示ガイドライン「ISO30414」を定めるなど、投資家などのステークホルダーに対する人的資本経営への取り組みの情報開示の動きが強まっています。企業価値や将来性を判断する目安として、人的資本経営が注目されているのです。


人材版伊藤レポート


日本国内の企業が人的資本経営を考える上での指針とされているのが、経済産業省主導で2020年に公表された「人材版伊藤レポート」です。


元々、「伊藤レポート」は、は2014年に「持続的成長への競争力とインセンティブ 〜企業と投資家の望ましい関係構築〜」プロジェクトの最終報告書として公表されました。


2014年の「伊藤レポート」は、人材に限定した内容ではなく、日本企業の収益性を上げ、持続可能な成長を実現するために、投資家との協創や資本効率化などの施策を提言する内容になっています。


この「伊藤レポート」の基本的な考え方に基づき、企業価値の向上や収益性の改善を実現する人材戦略に特化した戦略をまとめたのが「人材版伊藤レポート」です。


2020年の「人材版伊藤レポート」は、経済界でも大きな反響があり、2022年5月には「人材版伊藤レポート2.0」が、同9月には、「伊藤レポート 3.0(SX 版伊藤レポート)」が相次いで公表されています。


経済産業省主導で「人材版伊藤レポート」が発表され、ここ数年内にアップデートを重ねている状況を見ると、人的資本経営が、収益性や企業価値向上などの経営上の課題から出てきたものであること、近年国内でも大きく注目されていること、などがおわかりいただるでしょう。


ほかにも、経済産業省では、「人的資本経営コンソーシアム」※を設立し、先進事例の共有や企業間協力に向けた議論・情報開示などを行っています。




人的資本経営とダイバーシティ:企業の取り組み事例

2022年5月の「人材版伊藤レポート2.0」では、合わせて企業で人的資本経営を実践している事例集が公開されました。


『人材版伊藤レポート2.0実践事例集』の中から、特にダイバーシティ推進との関わりがある取り組み事例をご紹介します。


【株式会社荏原製作所の取り組み】

  • 海外拠点のキーポジション・人材も含めたプランニング、抜擢・育成 

  • 社外連携と人材育成

  • アルムナイ制度の実施


1912年創業の株式会社荏原製作所は、ポンプ・冷熱・環境プラント・精密・電子等の事業をグローバルに展開しています。


同社では、長期ビジョンに掲げる海外事業戦略実現のため、事業上重要なグローバルキーポジションへの後継者計画を整備し、後継者候補の全ての人材を社長がレビューしています。


学術分野事業に関連する専門家を招聘し、若手研究者を外部研究機関で育成しながら、事業に直結する技術課題に関する共同研究を実施するなど、社外と連携しながら人材育成を行っています。


さらに、自社の退職者を「エバルムナイ」(荏原製作所のアルムナイ)として、独自のネットワークを形成し、多様な人材の獲得や協業・オープンイノベーションを促進しています。


【株式会社丸井グループの取り組み】

  • 社員一人ひとりの自主性を促す「手挙げ文化」の醸成

  • 会社横断のグループ間職種変更異動で「個人の中の多様性」を実現

  • 全社的なダイバーシティへの意識醸成

  • 心理的安全性確保のための対話ルールの設定


株式会社丸井グループは全国に小売事業を展開しており、近年ではフィンテック事業も拡大しています。


同社では、10年以上の期間をかけ、社員一人ひとりの自主性を促す「手挙げの文化」という企業文化の醸成に取り組んできました。


また、社員の約8割に会社間の異動を経験させ、社員一人ひとりが「個人の中の多様性」を実現できるよう働きかけています。


全社的にダイバーシティへの意識醸成を行うため、職場での対話ルールの設定や外部講師を招いた研修などを行っています。


ダイバーシティ&インクルージョン (D&I)はなぜ必要か


カラフルな色鉛筆

人的資本経営の意味や重要性は理解したけれど、企業にとってダイバーシティの意味とは何か、ダイバーシティ&インクルージョンはなぜ必要なのか、と疑問に思う方もいるかもしれまません。


企業における多様性(Diversity)とは、年齢や性別・人種や価値観などが異なる多様な人材を活用して組織を活性化していくための取り組みや方針といった意味で使われます。


インクルージョンは「受容」と訳され、ダイバーシティを受け入れて活用する、「D&I=ダイバーシティ&インクルージョン」が新たな経営課題として取り上げられています。


企業にとってダイバーシティ&インクルージョンが必要とされる理由を挙げてみましょう。


  1. 優秀な人材の確保

  2. イノベーションの創出

  3. 企業価値向上やイメージアップ


優秀な人材の確保

少子高齢化により労働者人口が減り続ける中で、企業は女性・シニア・障害者・外国人など、多様な人材を受け入れていく必要があります。それぞれの特性や能力を生かして優秀な人材を確保するために、ダイバーシティ&インクルージョンが求められているのです。


さらに、職場におけるダイバーシティが進んでいる環境では、社員のエンゲージメント向上が期待できるというメリットもあります。


イノベーションの創出

市場や環境が大きく変化していく時代、消費者や顧客のニーズの変化に敏感に対応し、既存の価値観や習慣に捕らわれず、機動的に対応できる組織づくりが求められています。


ダイバーシティの推進で多様な人材を確保できれば、属性の異なる従業員やさまざまな目線からの意見が得られ、イノベーションの創出につながるでしょう。


企業価値向上やイメージアップ

ダイバーシティ&インクルージョンへの注目が社会的に高まっていることから、企業の社会的な信頼度やイメージアップなど、企業価値の向上にも役立ちます。


企業がダイバーシティを推進する意義や具体的な取り組み事例などについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

企業価値を上げるダイバーシティ(D&I)とは?企業がD&Iを推進するメリットや取り組み事例


人的資本経営とダイバーシティ取り組みのポイント


ノートパソコンを開き会議をする従業員

人的資本経営の観点からダイバーシティ推進に取り組むポイントとはどのようなことでしょうか。


一番大事なことは、人的資本経営やダイバーシティの問題を、単なるHRや人事部門が管轄する問題としてではなく、「経営課題」として認識することです。


すでに紹介した経済産業省の「人材版伊藤レポート」では、経営陣が持つべき「3つの視点」と「5つの共通要素」、合わせて8つのポイントが掲げられています。


「人材版伊藤レポート」に掲げられている8つの視点と、「人材版伊藤レポート2.0」で重要な取り組みとして挙げられているCHROについて解説します。


8つの取り組みポイント

「人材版伊藤レポート」に挙げられている8つの取り組みポイントをまとめると以下のようになります。

1.経営戦略と人材戦略を連動させるための取組 2.「As is - To be ギャップ」の定量把握のための取組 3.企業文化への定着のための取組 4.動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用 5.知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取組 6.リスキル・学び直しのための取組 7.社員エンゲージメントを高めるための取組 8.時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取組 引用元:「人材版伊藤レポート2.0


最初の3つ「経営戦略と人材戦略を連動させるための取組」「「As is - To be ギャップ」の定量把握のための取組」「企業文化への定着のための取組」は、特に経営者に必要な視点です。


経営戦略と人材戦略の連動、CHROの任命や定量的なKPIの設定など、経営トップが主導して取り組んでいく必要があります。


4以降は、具体的な人事戦略として取り組んでいくべきポイントです。動的人材ポートフォリオの策定やリスキリング、社員エンゲージメント向上や働き方改革など、すべて企業のダイバーシティ推進と密接に関わっていることがわかります。


「5.知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取組」には、女性活躍を促すことに加え、多様な知・経験を持ったキャリア採用者、外国人材を取り込むための施策などが挙げられます。



CHROとは

「人材版伊藤レポート2.0」で、経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組みとして重要なポイントとして挙げているのが、CHROの設置です。


CHROとは、最高人事責任者(Chief Human Resource Officer)を指し、経営陣の一員として人材戦略の策定と実行を担う責任者のことを言います。


CHROはただ人事部門の最高統括者というだけでなく、経営者サイドの視点を持って以下のような役割を担っています。


  • 経営戦略と人材戦略の連動を強化する

  • 社員・投資家を含むステークホルダーとの対話を主導する

  • 経営戦略と連動した人材戦略を策定し実行する責任を負う


【まとめ】人的資本経営とダイバーシティには密接な関わりがある

人的資本経営とは何か、人的資本経営とダイバーシティ推進との関わりなどについて解説しました。


人的資本経営とダイバーシティ推進には、求められる背景や具体的な取り組みポイントなどに共通した点が多くあり、両者は密接に関わっています。


人的資本経営のためにダイバーシティ&インクルージョンは欠かせない存在であり、どちらも投資家からの評価や社会的な信用度などを高め企業価値を向上させることにつながるのです。


人的資本とダイバーシティは、日本ではまだ比較的新しい言葉と考え方ですが、今後さらに注目され拡大していくでしょう。







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