「DEIB」という言葉を聞いたことがありますか?
ダイバーシティ推進・ソーシャルインクルージョン・ユニバーシティ…ESGやサステナビリティなど企業の経営環境が変化する中で、次々と新しい言葉が出てきて、戸惑っている人もいるかもしれません。
DEIBは、日本でも定着しつつある「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」に、「Equity(エクイティ)」と「Belonging(ビロンギング)」を加えた新しいコンセプトです。
DEIBとは何か、「Equity(エクイティ)」と「Belonging(ビロンギング)」の意味、日本企業におけるDEIBの具体的な取り組みなどについて解説します。
【 目 次 】
DEIBとは何か?読み方や意味を解説
DEIBとは、「Diversity(ダイバーシティ)」と「Inclusion(インクルージョン)」に、「Equity(エクイティ)」と「Belonging(ビロンギング)」を加えた略語です。日本でも最近定着してきた「D&I」に新しいコンセプトを加えた言葉で、読み方は「デイブ」と読みます。
【DEIBの意味】
Diversity: ダイバーシティ・多様性 Equity: エクイティ・公平性 Inclusion: インクルージョン・受容 Belonging :ビロンギング・帰属意識 |
日本では「D&I=ダイバーシティ&インクルージョン」が、企業の新たな経営課題として取り上げられ、日経連や経済産業省が推進活動を行うなど、コンセプトや言葉の意味が徐々に定着しつつあります。「D&I=ダイバーシティ&インクルージョン」の意味や日本企業の取り組みについては以下の記事も参考にしてください。
一方、新しいコンセプトの「Equity(エクイティ)」と「Belonging(ビロンギング)」についてはどうでしょうか。
「Equity(エクイティ)」は公平性などと訳されますが、平等や公正という意味の英単語には「Equality(イクオリティ)」もあり、混同してしまう人も多いでしょう。実は「DEI」や「DEIB」をめぐる議論の中では、「Equity(エクイティ)」と「Equality(イクオリティ)」は、はっきりと違う意味を持つ言葉として区別されています。
Equity(エクイティ):個人の環境や特性の違いを視野に入れて、同じ結果が出るように調整して機会やリソースを与える Equality(イクオリティ):違いを勘案せず、平等に機会やリソースを与える 引用元:United Way NCA-What Is Social Equity? Definition & Examples
「Equity(エクイティ)」は、「Equality(イクオリティ)」に比べ、一人ひとりのニーズや背景などの多様性に配慮して適切なサポートを提供することを重視しているといえます。
「Belonging(ビロンギング)」は、「belong to~」という言葉が「~に属する」と訳されるとおり、自分の居場所であるという感覚や帰属意識のことを意味します。
従来の日本企業では終身雇用が一般的で、帰属意識の高い社員が多くいました。しかし、働き方や雇用の多様化が進む中で、企業や組織で働く人たちの帰属意識も徐々に変化しています。
企業が職場でいくら多様な人材を受容し、公平性を与えるよう努力しても、働いている人たちが居心地が悪く感じていては意味がありません。働く人たちの帰属意識が低ければ、離職率は高まりパフォーマンスの向上は期待できないでしょう。多様性の受容と公平性を確保しながら、働く人たちの「Belonging(ビロンギング)」を維持し高めていくことが求められています。
DEIBはいつから使われている言葉?日本におけるダイバーシティ&インクルージョン推進
DEIBという言葉はいつから使われているのでしょうか。
アメリカでは、2020年頃から、「DEI」またはそれに「Belonging(ビロンギング)」を加えた「DEIB」という言葉が使われるようになりました。※
日本では、まず「ダイバーシティ推進」や「D&I」(ダイバーシティ&インクルージョン)が産業界で注目されるようになりました。2000年には、当時の日経連 (日本経営者団体連盟 )が「日経連 ダイバシティ・ワークルール研究会」 を設立し、松下電器産業やトヨタ自動車など大企業を中心にダイバーシティ推進活動を始めます。
2017年には経済産業省が「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を策定・公表し、その後検討会の立ち上げや、「新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライム」の選定を行うなど、ダイバーシティ推進の取り組みは中小企業にまで裾野を拡大しています。
2023年7月に経済産業省が公表した「ダイバーシティ・コンパス」は、ダイバーシティ推進の方針や指針を明確化したものです。「ダイバーシティ・コンパス」には、以下のような項目が含まれており、「DEIB」の他のコンセプトである「Inclusion(インクルージョン)」や「Equity(エクイティ)」・「Belonging(ビロンギング)」も重要な指針の一つとなってきていることがわかります。
Culture: 多様性を受容する文化 Individual: その人らしく活躍するための障壁を取りのぞく Will: 多様な個それぞれの意思の追求 引用元:METI/経済産業省-ダイバーシティ・コンパス
DEIBの取り組み状況:ダイバーシティ経営に関するアンケート結果
DEIBが日本企業で取り上げられるようになったのはまだここ数年ですが、ダイバーシティ推進については、20年ほどの期間を経て徐々に定着しつつあります。
日本企業のダイバーシティ経営がどのように変わってきたのか、直近のアンケートなどを元にみてみましょう。
「ダイバーシティ経営」に関するアンケート
HR総研(ProFuture株式会社)では、2022年6~7月に、200社を超える企業の人事責任者・担当者に対し「ダイバーシティ経営」に関するアンケートを実施しました。アンケート結果では、以下のような内容が報告されています。
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大企業でダイバーシティ推進活動を行っているのは6割超にのぼります。ダイバーシティ推進のための専門部署や組織を設置している大企業は3割超となっており、ダイバーシティ経営がメジャーなものになってきているのがわかります。
一方で、中堅・中小企業のうちでダイバーシティ推進に積極的なのは3割程度にとどまっているのが現状です。
ただし、企業の規模を問わず、「イノベーションを重視する」と回答した企業の中でダイバーシティ推進の取り組みを行っている企業は7割を超える、という結果が出ています。経営環境が劇的に変化する中、企業のイノベーションと活性化のために、経営陣や人事組織はダイバーシティ経営に注目しているようです。
企業が「ダイバーシティ経営推進に取り組む目的」については、「優秀な人材の確保」が最多で42%、ついで「専門性の高い人材の確保」が34%となっています。大企業も中堅・中小企業も、人材確保を経営上の大きな課題と位置づけているといえそうです。
DEIB宣言や取り組みを積極的に公開している企業や組織
ダイバーシティ経営が日本企業に浸透していく中で、ダイバーシティをより深掘りしたコンセプトであるDEIBに注目する企業も出てきています。
DEIB宣言や取り組みを積極的に公開している日本の企業や組織の一例をご紹介します。
東芝
東芝グループは、ESG経営の取り組みの柱として環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の各分野でマテリアリティを定め、社会分野の目標として「DEIBの推進」を掲げています。
東芝グループ共通のDiversity, Equity, Inclusion, Belongingの定義と目的を、すべてのステークホルダーに宣言し、DEIBに関する情報発信やDEIBを目的とする社内コミュニティ立ち上げなどの取り組みを行っています。
東芝グループのDEIB推進活動については、以下のHPをご参照ください。
JTB
JTBグループでは、公式HPでDEIB推進活動を公表しています。JTB株式会社の常務常務執行役員がDEIB担当・人財開発担当・働き方改革担当(CDEIBO)として旗振り役となり、5つの重点活動に取り組んでいます。
多様性を組織の強みにつなげる組織風土改革 「JTB Group WORK Style」の定着に向けたワークスタイル変革の推進 社員の自律をベースとしたキャリア開発支援 「JTBグループ障害者雇用理念」の具現化 ジェンダー平等 引用元:JTBグループサイト-サステナビリティ-DEIB (Diversity, Equity, Inclusion, Belonging)
JTBグループのDEIB推進活動については、以下のHPをご参照ください。
東海国立大学機構
岐阜大学と名古屋大学を統合し全国初の一法人複数大学として発足した東海国立大学機構は、2022年10月にDEIB推進宣言を発表しました。
名古屋大学の「LGBT等フレンドリー宣言」や「個人の尊厳を守り多様な個性を尊重する名古屋大学基本宣言」、岐阜大学の「岐阜大学男女共同参画行動宣言」や「多様な研究者と拓く岐阜の未来プロジェクト」など、両大学のダイバーシティ推進方針や活動を統合し、新たにDEIB推進宣言としてまとめたものです。
東海国立大学機構は、これからも、多様性(Diversity)、公正性(Equity)、包摂性(Inclusion)を積極的に推進して構成員が帰属感(Belonging)を得られ、全ての多様な構成員が、性、民族、言語、国籍や文化的背景、宗教、信条、政治上その他の意見、出身、財産、門地その他の地位、婚姻の状況、家族関係、ライフイベント、ライフスタイル、心身の機能の障害、疾患、年齢、経歴、外見・容姿、その他いっさいの個人の事由にかかわらず、その尊厳が守られ、公正に包摂されることによって、帰属感を持ちうる組織であり続けるための施策を、いっそう推進していくことを、ここに宣言します。 引用元:東海国立大学機構-DEIB宣言
【まとめ】DEIBの浸透とこれからの課題
ダイバーシティ推進をより進化させた考え方であるDEIBについて解説しました。
DEIBは日本ではまだ比較的目新しい言葉ですが、すでにDEIB推進活動や推進宣言を公表している企業や組織もあり、今後さらに浸透し拡大していくことが予想されます。
DEIBは、ダイバーシティに「Inclusion(インクルージョン)」「Equity(エクイティ)」「Belonging(ビロンギング)」を加えた言葉です。しかし、4つは別個に独立したコンセプトではありません。
ダイバーシティを推進すれば、インクルージョンやエクイティ、ビロンギングのコンセプトは自動的に必要とされ、課題として抽出されてくる可能性が高いといえるでしょう。
一方で、DEIB推進には課題も多くあります。DEIBのコンセプトをいち早く採り入れた米国の統計では、DEIB推進を掲げる企業の大半の従業員が、「DEIBのニーズが満たされていない」と感じていることが報告されています。※
企業のダイバーシティやDEIBの推進は、トップが方針を決め施策を導入すれば完結するというものではありません。時間をかけて企業文化や風土の育成をし、新しい課題や問題に粘り強く対応していく姿勢が重要です。
※参照元:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー-企業のDEIBの取り組みは従業員のニーズを満たしていない