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企業価値を上げるダイバーシティ(D&I)とは?企業がD&Iを推進するメリットや取り組み事例を紹介

更新日:2月5日



企業価値を上げるダイバーシティ(D&I)とは?企業がD&Iを推進するメリットや取り組み事例を紹介

日本でも企業におけるダイバーシティ(D&I)推進の取り組みが話題です。


しかし、「ダイバーシティって最近よく聞くけれど一体何?」「営利企業にもダイバーシティ推進が本当に必要なの?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。


ダイバーシティ推進には、優秀な人材確保や企業価値の向上などさまざまなメリットがあります。


ダイバーシティを積極的に取り入れようという動きは、大企業だけでなく中小企業を含め、業種や規模を問わず広がりつつあるのです。


企業価値を上げるダイバーシティとは何か、企業における具体的な取り組み事例などを挙げて解説します。


 

【 目 次 】

 

企業におけるダイバーシティ(D&I)とは


Diversityのブロック

ダイバーシティ(Diversity)とは、日本語に訳すと「多様性」という意味です。


企業におけるダイバーシティとは、年齢や性別・人種や価値観などが異なる多様な人材を活用して組織を活性化していくための取り組みや方針といった意味で使われます。


ダイバーシティとセットで使われる言葉としてインクルージョン(Inclusion)があり、これは直訳すると「包含・包摂」といった意味になります。ダイバーシティの考え方がアメリカの公民権運動と連動して生まれ、マイノリティの人たちが社会的に排除(Exclusion)されていることに抗議する意味で、インクルージョンという言葉が生まれました。


日本の企業や組織における文脈では、インクルージョンは「受容」と訳され、ダイバーシティを受け入れて活用する、「D&I=ダイバーシティ&インクルージョン」が新たな経営課題として取り上げられています。


ダイバーシティとは何かを理解するために、ダイバーシティの分類の仕方を簡単に説明すると以下のようになります。


ダイバーシティの分類

概要

表層的ダイバーシティ

見た目でわかる特徴

性別・年齢・人種・外見

深層的ダイバーシティ

外見からはわからない特性

価値観・習慣・職歴

しかし、この分類の仕方は便宜的なものであり、すべての多様性がどちらか一方に分類できるというわけではありません。宗教や社会的身分や性的指向など、表層的なものと深層的なもの両方に関連するような特性もあります。


ダイバーシティと言うと、多くの人が性別や人種など表層的ダイバーシティの特徴を思い浮かべると思いますが、ダイバーシティとは、それだけでなく、教育・ライフスタイル・家族構成など人が有するほとんどの属性を包含する考え方だと理解しておいてください。


また、最近新たに出てきたダイバーシティの考え方に、「ニューロダイバーシティ」や「イントラパーソナル・ダイバ-シティ」などがあります。


ニューロダイバーシティとは、発達障害など、脳や神経の発達に関連する個々人の特性の違いを個性の一つとして捉え、違いを活かしていこうとする考え方です。


イントラパーソナル・ダイバ-シティとは、企業や組織単位でダイバーシティを推進するのではなく、一人ひとりの個人の中で多様性を育むという考え方で、「個人内多様性」などと訳されます。



企業でダイバーシティ(D&I)を推進するメリット


ノートパソコンを見る4人

今、企業でダイバーシティとインクルージョン(D&I)が取り上げられている理由とは何なのでしょうか。


本来営利を目的とする企業がダイバーシティを経営課題として掲げることに違和感を覚えている人も少なくないでしょう。


社会の多様化や労働人口の減少などを前に、企業の経営者はダイバーシティとインクルージョンを喫緊の経営課題として突きつけられているのです。


さらに、ダイバーシティーは、対応しなければならない経営課題であると同時に、企業の収益性向上や組織変革につながるマネジメント法としても注目されています。


実際、経済産業省の上場企業約 300社対象の調査結果では、女性管理職の比率が平均より高い企業は、平均より低い企業と比べ総資産利益率が高い、という結果が出ています。(※)



企業でダイバーシティを推進するメリットを挙げてみましょう。


  1. 優秀な人材の確保 企業価値の向上 社員のエンゲージメントの向上

  2. 企業価値の向上

  3. 社員のエンゲージメントの向上


どのようなメリットがあるのか、一つずつ順番に解説していきます。


優秀な人材の確保


ダイバーシティの推進は、優秀な人材の確保につながります。


多様化された組織は新しいアイデアや解決策を生み出しやすい環境となり、優秀な人材を引きつけます。ダイバーシティのある企業は、競争力のある製品やサービスを提供する能力が高まり、それが優秀な人材を引きつける要因になるのです。


また、ダイバーシティのある企業では、さまざまなバックグラウンドを持つ人が自分なりの活躍の方法や場を見つけやすくなります。


少子高齢化により労働者人口が減り続ける中で、女性・シニア・障害者・外国人など、多様な出自と特性をもつ優秀な人材を確保するためには、企業と職場のダイバーシティとインクルージョンを深めていく必要があります。


企業価値の向上

ダイバーシティー推進は、企業価値の向上にも役立ちます。


ダイバーシティを推進することで、企業は社会的責任を果たし、顧客や就職先を探している人から、ポジティブなイメージを与えられるというメリットがあります。


さらに、消費者や顧客自体が多様化する中、企業にダイバーシティを取り入れることで、地域や文化、言語の差異に基づいたマーケティングやコンプライアンス対応が可能になります。


市場が大きく変化していく時代、消費者や顧客のニーズの変化に敏感に対応し、既存の価値観や習慣に捕らわれず、機動的に対応できる組織づくりが求められているのです。


社員のエンゲージメント向上

ダイバーシティを推進することによって、社員のエンゲージメントが向上します。


たとえば、社員が育児や介護など、個人の属性や家庭の事情で今までと異なる働き方をしなければならなくなったときにも、ダイバーシティに対応できる企業であれば、継続して働くことができます。


ダイバーシティへの対応ができている企業は、すべての従業員が自身のアイデンティティを認められ、尊重される文化を醸成しています。このような環境は従業員の満足度と忠誠心を高め、結果的に定着率が向上するのです。


企業におけるダイバーシティ(D&I)取り組み事例


女性が多数参加する会議


ダイバーシティの重要性は理解していても、実際にどうやって取り組めば良いのかわからない、という人も多いでしょう。


そこで、ここでは実際に企業がダイバーシティ推進のためにどのような取り組みを行っているか、その事例をいくつかご紹介します。


日本では、2000年に当時の日経連 (日本経営者団体連盟 )が「日経連 ダイバシティ・ワークルール研究会」 を設立したのをきっかけに、企業のダイバーシティ推進が提唱されるようになりました。


2001年には松下電器産業が 「女性かがやき本部」を社長直轄組織として発足、2002年にはトヨタ自動車が人事部門を中心とする専任チーム 「ダイバシティプロジェクト」 を立ち上げるなど、大企業が次々とダイバーシティ推進に取り組んでいます。(※)



新・ダイバーシティ経営企業100選から事例を紹介

経済産業省は、ダイバーシティ推進に取り組む企業のすそ野拡大を目指し、平成24年度から令和2年度まで経済産業大臣表彰を実施してきました。企業の経営戦略としてのダイバーシティ経営の推進を後押しするため、「新・ダイバーシティ経営企業100選」や「なでしこ銘柄」を選定し、表彰企業の一覧やベストプラクティス集を公開しています。


令和2年度「新・ダイバーシティ経営企業100選」受賞企業ベストプラクティス集の中から、取り組み事例を5つご紹介します。※



【大橋運輸株式会社(愛知県)】

  • 女性の活躍推進を目指してダイバーシティーポリシーを作成し、経営トップからの定期的なメッセージを発信

  • ダイバーシティ推進室を設置し女性常務を監査役に任命

  • 事務職への短時間勤務制度導入・ジョブローテーションの導入や採用プロセスの見直し

  • 弁護士・社会保険労務士・公認会計士などど連携し職場環境や制度改定の相談を実施

  • 管理職登用基準としてダイバーシティ経営の推進と必要なスキルなどを採用


大橋運輸株式会社は、一般貨物自動車運送業を営む社員111人の会社です。

地方中小運送業が直面する人材確保難及び新規事業展開に伴う人材開発・育成の必要性という経営課題を抱えており、トップダウンでダイバーシティを推進してきました。

上記のような取り組みにより、女性社員比率は5%から20%にアップ、女性管理職数も管理職全体の半数以上となり、外国籍や障がいのある社員の採用、複数の部署で LGBTQ人材が活躍するなど、多様な属性の人材の確保・活躍推進に成功しています。


【スズキハイテック株式会社(山形県)】

  • 外国人社員を組織に溶け込ませるための経営トップによるコミットメント

  • 人材育成の方向性を明確化し、やる気のある外国人社員は要職に登用

  • 外国人社員の活躍について講演活動やメディアなどで積極的に発信・PRし、社員のモチベーションアップにつなげる


スズキハイテック株式会社は、100年以上の歴史を持つ山形県のメッキ加工業社です。

文化の異なる海外での事業展開に苦戦し、受注一辺倒のビジネスモデル転換の必要性を感じていた同社は、人材獲得競争の激化や海外展開先で活躍できる人材を育成するために、優秀な外国人材の採用を課題としていました。

上記のような取り組みにより、事業再編と新規事業開発の成果が現れ始めています。また、外国人社員の活躍について能動的な PRを心がけた結果、積極的な求人活動は行わずとも、地元山形大学などから優秀で意欲ある人材の確保に成功しています。


【エーザイ株式会社(東京都)】

  • 全管理職にダイバーシティ研修を実施

  • 人事評価の項目に「多様性への対応」を設定するとともに、社員のキャリア形成を上司と一緒に話し合う「プロフェッショナル開発レビュー」を制度化

  • 2018年度から、女性管理職比率の低かった営業部門での女性活躍推進プロジェクトを実施

  • 配偶者出産休暇の新設、育児や看護・介護等のケアワークに関わる休暇や休業の制度改定

  • 定年を60歳から65歳に引き上げ、様々な経験を持つミドル・シニアの活躍の場を広げる施策を推進

  • 選抜型のグローバルリーダー育成プログラムなどグローバル人材育成の施策強化


エーザイ株式会社は、従業員3000人以上、グローバルに医薬品の研究開発や製造・販売する製薬会社です。新薬の開発に10年以上の時間がかかり、中長期的な視野に基づくサステナブルな経営が求められる製薬業界の中で、事業環境の変化や世界中のさまざまな医療ニーズに対応できるグローバルタレントマネジメント体制の構築を人材戦略として掲げてきました。

上記のような取り組みにより、2010年度時点で3%であった女性の管理職比率は、2020年4月時点で10.4%と大きく前進しました。また、海外拠点の社員や社外の企業・組織との協働が促進されることにより、プラットフォーム事業の立ち上げといった新規事業で効果が出てきています。


【カンロ株式会社(東京都)】

  • 2018年2月に執行役員を委員長とする「ダイバーシティ委員会」を立ち上げ、「ダイバーシティ宣言」を制定してポリシーを明確化

  • 座席のフリーアドレス化、フレックスタイム制度のコアタイム短縮、テレワーク制度導入などの働き方改革を実施

  • 女性社員のキャリア意識改革とサクセッションプランにつながる「経営塾」の実施

  • 本社に勤務する社員と支店や工場に勤務する社員の一体感の醸成するための施策実施


カンロ株式会社は創立100年を超える老舗製菓企業です。人口減少や少子高齢化で国内菓子市場規模は大きな成長が見込めない中、事業拡大や新商品開発のために、イノベーションの源泉となるダイバーシティ推進を経営課題として認識していました。

上記のような取り組みにより、2018年にはこれまで同社が獲得できていなかった子どもをターゲットとした商品開発を目指した経営トップ直轄の新プロジェクトが発足し、ワーキングマザーがプロジェクトリーダーを務めた新商品の2020年の売上実績は計画比約140%を達成しました。

男性の育児休業取得率が上昇したほか、女性管理職比率は、2016年 5.0%から2020年12.6%と順調に向上しています。


【株式会社四国銀行(高知県)】

  • 人材育成部門を総合企画部に移し、経営戦略の実現における各部署の課題と要望を反映した適材適所・社員の専門性習得・若手社員のキャリア形成支援などを実現

  • キャリア採用者のスキル・ノウハウ共有と出向による専門人材の育成

  • 育児による短時間勤務制度の利用要件拡大、傷病時に利用できる積立休暇制度の要件緩和など制度の充実


四国銀行は、高知県を中心として、四国全域と近隣の本州地域へ広域なネットワークを持つ地方銀行です。人口減少と高齢化が進み従来の預貸ビジネスモデルでは成長が見込めない状況の中、デジタル技術の活用などによる業務効率化と顧客企業に大して事業継承や資産形成コンサルティングができる人材育成などを経営・人事的課題として抱えていました。

上記のような取り組みにより、コンサルティング部では、高いスキルを有する専門人材と営業店の連携が可能となり、事業承継・M&A支援件数は 2018年度から 1年間で 1,000件以上増

加しています。

2014年比で女性役職者は50名増加(女性比率 19.45%)、女性管理職は11名増加(女性比率 7.19%)するなど、女性のキャリアアップについても実績が出てきています。


企業におけるダイバーシティ(D&I)の課題


カラフルな折り紙

企業におけるダイバーシティ推進は、大企業だけでなく中小企業まですそ野を広げていますが、新たな課題も出てきています。


ダイバーシティ推進の取り組みをしていくうえで、企業は以下のような点に気をつけると良いでしょう。


トップダウンの取り組みで現場が混乱しないよう注意する

企業におけるダイバーシティの取り組みは、初めにトップがコミットメントし、ポリシーやメッセージを明確に打ち出すことが大切です。


しかし、トップダウンの取り組みで、現場が混乱しないように注意する必要があります。現場の社員に、本業やラインの仕事とは別の負荷がかかったり、やらされ感が出たりしないよう、社員や管理職への理解徹底を心がけましょう。


社員同士の軋轢や不公平感を生まないように工夫する

ダイバーシティを推進していく中では、異なった立場や価値観がぶつかり合い、社員同士の軋轢や不公平感が生まれるリスクもあります。


メンバーたちのダイバーシティへの理解が不十分だと、異質の存在と協力し合って仕事を進めることは返ってストレスになりかねません。


経営サイドはダイバーシティを一方的に押しつけるのではなく、ダイバーシティの意義や重要性を社員に理解して受け入れてもらえるよう時間をかけて教育していく必要があります。


数値目標や制度改定といったわかりやすい結果だけに捕らわれない

ダイバーシティは企業文化の醸成や社員一人ひとりの納得と理解が欠かせません。


女性管理職率〇%や、人事制度の改定などわかりやすい指標や結果だけを追うのではなく、ダイバーシティを推進する意義や目的に立ち返って、継続的に取り組むことが大切です。


【まとめ】企業におけるダイバーシティ(D&I)は今後ますます拡大

企業におけるダイバーシティ推進のメリット、具体的な取り組み事例などを解説しました。


経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」の取り組み事例や企業一覧などを見ると、ダイバーシティ推進の動きは業種や規模を超えてさまざまな企業に広がっているのがわかります。


一方、企業におけるダイバーシティ推進の動きが拡大していく中で、多様な価値観や属性が混じることで職場の軋轢や混乱が生まれる、など新たな課題も出てきています。


ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、明確な目標を達成したらおしまい、というものではありません。


企業や経営者は、新たな価値観や多様性に対応するために、変化し対応し続けることが必要とされているのです。



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