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スポーツ組織とビジネス組織の共通の課題はなにか

  • 執筆者の写真: なつき 高橋
    なつき 高橋
  • 7月18日
  • 読了時間: 7分

組織にとって効果的なコミュニケーションとは何か。質の高い対話が企業パフォーマンスを左右する

総研コラムでは、わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)(WMSC)の研究員らが「企業で働く個人のユニークネスと組織のオリジナリティを最大限に発揮する」ためのヒントとなるような知見や情報を提供します。

執筆者: 松下 信武

アイデンティティー・パートナーズ株式会社 わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所) 上席研究員/コーチ


【 目 次 】


高めの球、低めの球

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「外角低めをかすめる、あの速球が懐かしい」。

これは2025年4月25日の日経新聞のスポーツ欄に掲載された、阪神タイガースのかつてのエース・小山正明投手の追悼記事の一節です。


この記事から、小山正明投手が阪神タイガースのエースとして活躍していた当時では、投手は低めに投げることが重要課題であったことがうかがえます。私自身も今まで、打者にとって低めの球は打ちにくいと考えていました。


ところが今日の野球では事情が違っています。つい最近、プロ野球でデータ分析をしている専門家から聞いた話によると、メジャーリーグでも、日本のプロ野球でも、投手は高めの球で打者を打ち取る確率が高いそうです。


そのため投手は、決め球の一つとして、高めの球を投げる練習をしています。その話を聞いた時、私は思わず、「えっ、投手は高めで勝負するのですか!?」と聞き返しました。


「もちろん高低を投げ分ける必要はありますが、高めの球は打者にとって、実際の球速より速く見えます。そのため、高めの球を打つと、凡打で終わったり、空振りをする確率が高いのです」というのがアナリストの答えでした。



通念について

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さて「高めの球」とビジネスにどのような関係があるのでしょうか?


これら二つをつなぐのは、経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイスが提唱した「通念」であると私は考えています。


ガルブレイスは名著『ゆたかな社会』で、通念を「その時々に人々に受け入れられている考えで、その弊害として、人々の思考停止や現状維持的な思考を引き起こす」と批判しています。


言葉を変えれば、通念とは、「ある集団や特定の社会階層で正しいと信じられている、時代遅れの信念」ということになるでしょう。


よい大学に入り、よい企業に入ったり、医師や弁護士などの高度な専門職になったりすれば、安定した豊かな生活が送れる、というのも、日本の中産階級以上の階級で、いまだ力をもっている通念の一つでしょう。


その通念の影響力があることを証明する社会現象が、有名私立小学校・中学校の厳しい受験戦争です。


安定している社会では、大企業や特定の職業につけば、経済的に豊かな生活が送ることができる確率は高いでしょう。


しかし、大企業といえども、ビジネスモデルが時代遅れとなれば、リストラ、売却、倒産を避けることができません。


AIの進化により、病気になってもリモートで診察を受け、薬も処方される時代の到来が目の前にきています。そうなれば医師という職業も大きな変化に見舞われるでしょう。


さて、野球では「低めの球を投げれば打たれない」という考えが、「高めの球を投げて打者を打ち取る」という新しい考え方の登場で通念になってしまいました。


「よい大学に入れば豊かな生活が送れる」という考え方を通念に変える、新しい考え方は何でしょうか?


「ほんとうにやりたいことを見つけ、それを職業にすれば、意味のある人生を送れる確率は大きくなること」だと私は考えています。


私は、今年で80歳になります。私自身の人生を振り返っても、コーチングを通して出会った、有意義な人生を送っている人たちのことを思い出しても、「ほんとうにやりたいことを見つける」ことが、激しい変化の時代を生きるノウハウの一つと信じています。


さらに視点を変えれば、「自分の仕事を、自分にとってほんとうにやりたいことに変える」というジョブ・クラフティング的な発想が求められているのだと思います。



ほめることの大切さとほめないことの大切さ

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私は女子ハンドボール部のメンタルコーチをしています。


コーチの一人のNさんから、ビジネスの現場でも使える人材育成に関する素晴らしいお話を聞きました。


Nさんは、中学から大学までは、日本の体育会の典型的な厳しい指導を受けて育ち、その後東京オリンピックの日本チームメンバーに選ばれました。


日本チームのヘッドコーチはデンマーク人のウルリック・キルケリー。Nさんは、キルケリー・ヘッドコーチが選手のプレーをほめるばかりで、日本の指導者のように、「お前は馬鹿か!」などのパワハラ的な叱責やネガティブ・フィードバックをしないことを不思議に思ったそうです。


Nさんは選手引退後、ハンドボールの本場のデンマークに留学しました。


デンマークの指導者たちは、キルケリー・ヘッドコーチと同様、ほめることが主の指導方法でした。しかし、Nさんはやがて、まったくほめられない選手がいることに気づきました。


さらに観察を続けていると、ヘッドコーチの戦略に合致している選手はほめられ、合致していない選手はほめられません。


「ほめる」指導方法によって、チームにヘッドコーチの戦略が浸透することにNさんは気づいたのです。


Nさんは帰国後、小学生や中学生のチームを指導するとき、デンマークのやり方を導入しました。


子どもたちは、どうすればNさんにほめられるのかを自分で考えたり、子どもたち同士で教え合うようになり、チームは全国大会出場を果たしました。



日本では一時、「ほめる子育て」が流行しましたし、現在のビジネス現場ではパワハラをおそれるあまり、ほめることが推奨されていますが、そこに落とし穴があります。


それは「ほめない」ことの重要さが見落とされていることです。


スポーツの指導者も、ビジネスのリーダーも、自分が考えるチームや企業のあるべき姿を明確にして、その姿に近づく選手や部下の言動をほめ、そうでない選手はほめないことで、リーダーの考えが浸透するようにすれば、パワハラの心配はなくなります。


さらにもう一つの落とし穴があります。「ほめない」ことと、「無視する」ことは別ものであることです。


ほめられない選手や部下に対しては、「どうすればパフォーマンスがあがるか、どうすればもっとよくなるか」をメインにしたネガティブ・フィードバックを行う必要があります。


昔の日本の体育会的指導においては、ネガティブ・フィードバックを、指導者の不満をぶつける叱責や、自分の権威を守るための恫喝に近い形で行っていました。


これからの時代は「どうすればよくなるか」を明確に示すネガティブ・フィードバックを行うほうがよいと思います。私は高校野球のメンタルコーチをしていますが、高校野球の若い指導者の多くは、体育会的な指導方法をとらなくなってきています。


私はビジネスパーソンに、学校のクラブ活動の指導者やメンタルコーチを経験することを勧めています。


スポーツは結果が勝ち負けで示され、指導方法がよかったか、悪かったかがすぐにわかります。その根底で動いているチームビルディングの原理は、スポーツもビジネスも同じです。スポーツはマネジメントやリーダーシップの絶好のトレーニングの場だと思います。


▼この記事を書いた人

​松下 信武(まつした のぶたけ)


〈プロフィール〉

アイデンティティー・パートナーズ株式会社 わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所) 上席研究員/コーチ

日本のエグゼクティブ・コーチングの創生期から、エグゼクティブ・コーチとして活躍。現在も、月平均10名以上のエグゼクティブ・コーチングを行っている。

心理学の視点に立ち、様々な企業の人材育成のアドバイスや心理アセスメント作成をしている。

スポーツメンタルコーチとして、日本電産サンキョー ㈱ のスケート部のメンタルコーチとして、3回冬季オリンピックに参加。丸亀城西高校硬式野球部甲子園大会出場等多数の実績を持つ。



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