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DEIが生み出す成長と可能性 ~ココ・ファーム・ワイナリーに学ぶ人材育成と組織開発の未来~

  • 執筆者の写真: なつき 高橋
    なつき 高橋
  • 4月18日
  • 読了時間: 8分

組織にとって効果的なコミュニケーションとは何か。質の高い対話が企業パフォーマンスを左右する

総研コラムでは、わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)(WMSC)の研究員らが「企業で働く個人のユニークネスと組織のオリジナリティを最大限に発揮する」ためのヒントとなるような知見や情報を提供します。

先日ココ・ファーム・ワイナリーに行ってきました。

栃木県足利市の山あいに広がる葡萄畑。その風景の美しさに目を奪われながらも、何より心を打たれたのは、そこで働く人たちの姿でした。急斜面の畑で汗を流すスタッフの方々、その真剣なまなざしと穏やかな雰囲気は、まるでその場全体が「人を育てる場」であるかのように感じられました。

訪問を通じて、「多様性を活かす」ということの本当の意味を、改めて考えさせられました。

そこで今回は、「DEIが生み出す成長と可能性 ~ココ・ファーム・ワイナリーに学ぶ人材育成と組織開発の未来~」と題して、ワイナリーでの取り組みを通じて見えてきた、DEIの実践とその可能性について、考えてみたいと思います。


執筆者:佐藤 純子

アイデンティティー・パートナーズ株式会社 取締役副社長

わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)センター長/専任講師


【 目 次 】




DEIの本質とは


近年、企業経営において「DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)」の重要性が高まっています。多様性を尊重し、公平性を確保し、包括的な環境を築くことは、組織の成長とイノベーションを促進する鍵とされています。

しかし、日本ではDEIというと女性活躍の推進をイメージする人が多いかもしれません。確かにジェンダー平等はDEIの重要な要素ですが、それだけではありません。年齢、人種、障害の有無、性的指向、文化的背景など、多様な個性や特性を受け入れ、それぞれが公平に活躍できる環境を整えることが真のDEIといえます。

こうした理念を体現し、人材育成と組織開発に成功している事例として、栃木県足利市にあるココ・ファーム・ワイナリーが挙げられます。



ココ・ファーム・ワイナリーの挑戦と成功


ココ・ファーム・ワイナリーは、1958年に特殊学級の中学生たちと担任教師・川田昇氏が急斜面に葡萄畑を開墾したことから始まりました。その後、1969年には指定障害者支援施設「こころみ学園」が設立され、知的障害のある方々が葡萄栽培に従事するようになりました。

しかし、社会福祉法人では果実酒製造免許を取得できなかったため、1980年に有限会社ココ・ファーム・ワイナリーが設立され、1984年に製造免許を取得。以来、知的障害のあるスタッフがワイン造りに携わるという独自の取り組みを続けています。葡萄畑や醸造場での作業では、それぞれの能力を最大限に引き出せる環境が整備されています。

平均斜度38度の急斜面での作業は機械化が難しく、人の手による丁寧な作業が欠かせません。このような環境での労働を通じて、彼らは自己の力を高め、自然と共に生きる喜びを実感しています。


著者撮影
著者撮影


人材育成と組織開発の視点から見るDEIの実践


ココ・ファーム・ワイナリーの取り組みは、人材育成と組織開発における成功事例といえるでしょう。


・個々の強みを活かす役割設計

ワイナリーでは、障害の有無に関係なく、一人ひとりの特性や得意分野に応じた役割が与えられています。葡萄の手入れが得意な人は畑で作業し、細かい作業が得意な人は瓶詰めやラベル貼りに従事します。このように「できないこと」ではなく「できること」にフォーカスする姿勢が、従業員の自信と成長を促しています。


・包摂的な職場文化

知的障害のあるスタッフとないスタッフが一体となって働くことで、相互理解と共感が深まります。その結果、職場全体に寛容で温かい文化が育まれています。この包摂的な文化は顧客にも伝わり、ワイナリーへの信頼と共感を生んでいます。


・業績と社会への影響力

ワイナリーは、高品質なワインを生産し続けることで国内外から高い評価を得ています。2000年の九州・沖縄サミット晩餐会や2016年の伊勢志摩サミットの配偶者プログラムで同社のワインが提供されるなど、その品質は国際的にも認められています。

さらに、毎年秋に開催される「収穫祭」には多くの来場者が訪れます。このイベントは、障害のあるスタッフとないスタッフ、そして地域住民が、共に収穫を祝う場であり、地域コミュニティと障害者が交流し、共生する機会を提供しています。こうした活動を通じて、障害者の社会参加を促進し、DEIへの理解と関心を広げています。



DEIは製造業以外でも効果的


ココ・ファーム・ワイナリーの取り組みは、DEIの本質と可能性を体現しています。知的障害のある人々が主体的に働く環境を整えることで、組織全体の成長と結束が促進されています。

この事例は製造業にとどまらず、サービス業やIT業界など非製造業にも応用可能です。多様性を受け入れ、公平性を担保し、包括的な組織を築くことで、企業はより創造的で競争力のある存在へと成長していくでしょう。


・サービス業での顧客対応力の向上

飲食店やホテルなどでは、文化的背景が異なる従業員がいることで、多様な顧客ニーズに対応できるようになります。


事例

株式会社ユニクロは、グローバルな事業展開に伴い、多様な人材の採用と育成に積極的に取り組んでいます。多様な文化的背景を持つ人材を活用し、グローバルな市場での競争力を高めています。

訪日外国人観光客の需要に対応するため、多言語対応スタッフの配置や免税サービスの提供など、さまざまな施策を実施しています。​これらの取り組みにより、外国人観光客が快適に買い物を楽しめる環境を整え、売上の向上に寄与しています。


・IT業界でのイノベーション創出

IT業界では、多様なバックグラウンドを持つチームが多角的な視点で問題解決に取り組むことで、革新的なアイデアが生まれやすくなるとされています。


事例

シスコ日本法人では、以下の5つのコミュニティを通じて、多様なバックグラウンドを持つ社員が協働しやすい環境を整備しています。​

・Women of Cisco

・Connected Disabilities Action Network

・Emerging Talents

・PRIDE (LGBTQ+ & Allies)

・Cisco Citizen Network


出典:


・企業イメージと競争力の向上

DEIを推進することで、社会的責任を果たす企業としての評価が高まり、優秀な人材の採用や顧客からの信頼獲得につながります。


事例

ソニーグループ株式会社は、ダイバーシティを企業文化の核心に据え、性別や人種、性的指向などの多様性を尊重する取り組みを行っています。​「Diversity Week」の開催や女性活躍推進、LGBTQ+支援などを通じて、企業イメージと競争力の向上を実現しています。

出典:


企業アンケートが示すDEIの現状

2025年3月に、わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)が、日本企業200社に対して行ったアンケート調査によると、日本企業の約65%がDEIの推進に積極的であり、非製造業においてもその重要性が認識されています。






DEIがもたらすメリット


DEIを推進することで、以下のようなメリットが期待できます。


・多様な視点によるイノベーション

異なる背景を持つ人々が集まることで、新しいアイデアや柔軟な発想が生まれやすくなります。


・従業員満足度と定着率の向上

公平で包括的な環境は、従業員のモチベーションを高め、離職率を低下させます。


・企業ブランドと社会的評価の向上

DEIに積極的に取り組むことで、企業イメージが向上し、社会的責任を果たす企業として評価されます。



わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)では、「対話する力」を基盤とした企業教育と組織開発を通じて、DEIの推進を支援しています。詳細は こちら をご覧ください。



DEIが未来を切り拓く

多くの企業がDEIの重要性を認識しながらも、「何から始めてよいかわからない」「効果が見えにくい」といった理由で足踏みしています。

しかし、ココ・ファーム・ワイナリーの事例が示すように、小さな一歩でも「強みにフォーカスする役割設計」や「包摂的な文化づくり」を取り入れることで、組織の生産性や従業員満足度が着実に向上します。

また、大切なことは結果を短期的な視点で見るのではなく、継続して取り組むことです。

DEIは単なる理念ではなく、未来を切り拓く力そのものです。ココ・ファーム・ワイナリーの挑戦が示すように、一人ひとりの個性を尊重することで、組織はより創造的で強靭になります。日本企業がDEIを推進することで、より持続可能で多様性に富んだ社会の実現へと歩みを進めていけるでしょう。


そして最後に、もう一つ大切なことをお伝えしなければなりません。

ココ・ファーム・ワイナリーのワインは、本当においしかったです。

その味には、土とぶどうと人とが丁寧に向き合ってきた時間が、静かに、そして確かに溶け込んでいるように感じられました。 


著者撮影
著者撮影

▼この記事を書いた人

佐藤 純子(さとう じゅんこ)


〈プロフィール〉

ICC認定国際コーチ、ICC認定国際チームコーチ、ICNLP認定マスタープラクティショナー。

日本コーチ連盟認定コーチ養成プログラム修了。一般社団法人メンタルヘルス協会認定カウンセラー。

化学品メーカー入社、量販店・専門店を対象とした商品紹介業務に携わるなかで新入社員OJTを担当したことがきっかけとなり人材育成の可能性について興味を持つ。

その後転職をしたCRMマーケティング会社では延べ10,000人のコーチングに携わり、講師としても数多くの企業研修に登壇し参加者の課題解決をサポートする。

現在はアイデンティティー・パートナーズ株式会社「わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)」 にて、「独自性の社会化」をテーマに職場のコミュニケーションやコーチングにおける研究や研修開発を行うほか、専門性を活かしたコーチング、コミュニケーション研修などの登壇も得意とし企画立案から研修後のフォローまでを一貫して支援している。趣味はヨガと自転車。猫好き。



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