世の多くのマネージャーが、部下へのフィードバックに苦手意識をもっているようです。実際、評価者研修でフィードバックをテーマに扱うと、多くのマネージャーから悩みを伺います。
特にネガティブなフィードバックにおいては、フィードバックすべきシチュエーションだと感じてもつい後回しにしたり、そのまま機を逃してしまったりしがちです。
今回は、部下育成におけるフィードバックについて、理論や研究されているものなどを参考にしながら、いくつか解説してみます。
【 目 次 】
マネジメントにおけるフィードバックの目的
マネージャーは部下の活躍を通じて組織の目的を達成することが求められます。つまり、職務に部下育成が含まれるものです。
フィードバックの目的は2つあります。ひとつは「部下の育成」、もうひとつは「チームの規範形成によるアラインメント(足並み揃え)」です。
部下の育成
フィードバックと部下の育成について、教育に関する心理学や理論を用いると、次のようなことが考えられます。
フィードバックを適切に用いることで、期待を伝えられる
期待が伝わると、それに応えようと努力し成績が向上する「ピグマリオン効果」が発生する
またフィードバックによって部下が気づけていない視点を付与することは、視野や視座を引き上げることに繋がります。これは「経験学習モデル」で説明できます。
経験学習モデルとは、人が学び、成長していく上で効果的なサイクルのことで、以下4つの工程を循環します。
具体的経験(経験)
内省的省察(省察)
抽象的概念化(概念化)
積極的実践(実践) → 1へ戻る
この工程にフィードバックが加わると「省察」の質が高まります。よい振り返りができれば、次の実践での実りも多いはずです。この積み上げによって部下は成長していきます。
チームの規範形成によるアラインメント(足並み揃え)
フィードバックを繰り返し行うことによって、チーム内で良い・悪いことの認識が揃っていき、アラインメントに寄与します。
フィードバックには、良いことは良いと伝える「ポジティブ・フィードバック」、悪いことは悪いと伝える「ネガティブ・フィードバック」があります。
注意すべきは、良い・悪いの判断基準です。フィードバックする際に、チームの規範や評価基準等、ブレない軸をもつことが欠かせません。これがブレてしまうと、チームはかえってまとまりを失います。
以上、フィードバックの目的について2つお伝えしました。ここからは、目的のひとつめ「部下育成」におけるフィードバックを見ていきます。
そもそも良いフィードバックとは?
「フィードバック」は、Food(食べ物/栄養)を語源とする「Feed」から来た言葉です。部下を育成する観点だと、成長するための栄養を与えることを意味しますね。
しかし、栄養になりそうなものは与えれば無条件で食べてもらえるわけではありません。
与えすぎれば本当に食べて欲しかったものを残してしまうかもしれません。お腹が空いていないときも食べないでしょう。初めて食べるものを説明なく渡したら、食べ方がわからなくて、食わず嫌いになることも考えられます。信頼していない人からもらったものには少し警戒するでしょう。
これらのことから良いフィードバックのポイントが見えてきます。
何を:相手が必要だと感じていそうなものを見定める
いつ:必要なタイミングを見定める
どのように:受け取りやすいように渡す
誰が:信頼できる相手から渡す
逆に、悪いフィードバックも見えてきますね。
自分が渡したいものを渡したいだけ渡す
自分の都合、タイミングで渡す
相手が受け入れづらい伝え方
信頼関係が出来ていないのにフィードバックをする
フィードバックを受け入れてもらうために必要なこと
村瀬・落合によれば、フィードバック内容を受け入れるフローは以下の図のようになります。
引用:村瀬俊樹・落合陽大『ネガティブフィードバックの言語表現が受け手の反応に与える影響』
ここからわかるのは「フィードバックは相手の成長を心から願ったものであるべきだ」ということです。
「フィードバック内容の受諾」はもとをたどれば「受け手の向上を目的としているという解釈」に行きつきます。ネガティブな感情からスタートしてはいけないのです。
相手が必要なフィードバックをするには
フィードバックで渡そうとしているものは、部下が目指す方向と合致しているでしょうか。自身の過去の成功体験に引きずられていないでしょうか。
組織の成長に必要な学びだったとしても部下個人の希望に合致していなければ、与えられることを待つ状態から自律的に自分の成長を考える状態にはなりづらいものです。
部下がどのようなキャリア観を持っているのか。組織の目指す方向に対して、どの様に感じ、考えているのか。フィードバックを行う前に、部下と対話し、土壌を耕しておく必要があるでしょう。
フィードバックの禁忌
相手の「人格」に触れたフィードバックは、相手のために行っているとは捉えられず、反抗的感情を招きます。ですからフィードバックは、基本的に相手の「行動」にもとづいて行います。
人格評価を含むネガティブフィードバックは、他の言語表現よりも、受け手が向上することを思ってではなく、送り手のネガティブな感情に従ってなされた発言であると解釈されやすく、送り手との友好的関係や受け手が自分の仕事を向上させようという目標を立てにくくし、受け手の反抗的感情を招きフィードバックを受諾させにくいことが明らかになった 引用:村瀬俊樹・落合陽大『ネガティブフィードバックの言語表現が受け手の反応に与える影響』
一度でも人格に触れたフィードバックをしてしまうと、信頼関係は容易に崩れます。また不要なインパクトを残すことで、崩れた信頼を築き直そうという前向きな感情を阻害する可能性もあります。
まとめ
部下育成におけるフィードバックのポイントを見ていきました。
相手が受け入れやすいものを渡すためには、相手を深く理解することが必要です。また、相互理解を深め、組織と個人の目指すものを繋げていくには、組織の目指す方向やマネージャーとして考えを丁寧に伝えることも大切だと言えます。
そのフィードバックは、なぜ食べてもらいたいのでしょうか?
そのフィードバックは、部下自身が目指す成長した姿に繋がるでしょうか?
組織の中で、良い対話が起こることを願っています。
▼この記事を書いた人 安達 優哉(あだち まさや) 「わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)」 マネージャー/組織開発コンサルタント |
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