あなたの会社では「若手人材の離職」にお悩みではありませんか?
この課題は企業規模、業界業種、地域問わず、さまざまな企業人事のご担当者様からまっ先に出てくるもので、企業経営においてとても重要な課題だと感じています。
今回は若手人材の離職はなぜ起き、それが企業経営にどんな影響を与えるのか。今後どのように対応していくべきかを、私自身の体験も踏まえお伝えしていきます。
【 目 次 】
若手の離職率の現状
厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」によると、2021年時点の大卒新卒者の3年以内離職率は31.2%。
出典:厚生労働省
若手社員が入社3年以内で離職する割合はここ数年3割前後で推移していますが、これは今に始まったことではありません。以前から同じような状況が続いているのはご存知のとおりです。
2006年に『若者はなぜ3年で辞めるのか?』という本の発刊が話題になりましたが、あの頃から変わらず若手の離職は続いています。
膨大な経費や工数をかけて採用したのに数年で離職されてしまう。この事実は長年、人事やマネジメントを担当されているみなさまを悩ませてきたのではないでしょうか。
人生100年時代の今、転職は当たり前になっています。いまや生涯同じ会社で働くことの方が非現実的ですので、離職自体を否定するつもりはありません。私自身も3回の転職を経て今に至っております。
今回フォーカスするのは離職率ではありません。離職原因の最近の動向などから、今の時代の人材育成や人材マネジメントについて考えていくのが本記事の主旨です。
なぜ若手は辞めるのか?
なぜ若手は辞めるのか?
個別性が強いこの問いに唯一の答えはありません。
私は人事やマネジメントの立場で20年ほど人材育成・人材マネジメントに携わってきましたが、若手とくに優秀人材といわれる層の離職理由は年々変わってきていると実感しています。
20年ほど前の離職理由で多かったのは、仕事がきつい、自分の時間がほしい、このままでは将来が考えられない、というものでした。バブル崩壊やリーマンショックなどで企業経営が不安定だった頃です。業績を上げることに必死で労働時間が長くなるのは当たり前という状況でした。
2010年代、いわゆる「ゆとり世代・さとり世代」が入社する時代には、「仕事と生活の両立を重視したい」「自分のやりたい仕事をしたい」というケースが増加します。
そして昨今、いわゆる「Z世代」が入社してくる時代。デジタルルネイティブといわれる彼らは情報に強く、「もっと自分に合っている環境があるかもしれない」「自分のスキルや知識をもっと向上させたい」と考えて転職を決断しているようです。
組織で働く以外の選択肢も増えており、起業やフリーランスという選択肢も現実的です。
とある若手の退職理由
私の実体験として前職の若手優秀社員Aさんの退職理由がとても印象に残っています。
その会社には若手の時から権限移譲をし、先輩後輩関係なく仕事を任せる風土がありました。
私はAさんの上司ではありませんでしたが、入社時からメンター的な役割を担っていて、いろいろな相談を受けていました。
私が退職した後、Aさんから転職の相談で連絡が来た時の言葉が以下です。
「とてもありがたいことに上司やお客様に恵まれたこともあって、この会社でやれることはやり切ったと感じています。今後この会社で働き続けた時の自身の成長に限界を感じてしまったので、もっと自身が成長できる環境に身を置いてチャレンジしたいと思います」
この言葉を聞いた時に、あらためて人材育成、人材マネジメントは個別性が強いと感じました。
恵まれている環境にいて成長実感があったとしても離職をしていく。こういう若手がいるというのが現実です。
参考記事を挙げておきます。
若手社員が抱える「キャリアへの焦燥感」
参考記事にもある通り、働きやすい大手企業にいながら自身のキャリアに不安を抱えている優秀な若手人材は非常に多く存在します。
リクルートワークス研究所の調査によると、「自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない」と感じでいる割合が52.2%、「不安」に感じている割合が75.8%です。
出典:リクルートワークス研究所
さらに現在の職業生活で思っていることを掘り下げたのが以下の表です。「成長できないのでは」「別の会社で通用しないのでは」といった不安が伝わってきます。
仕事の負荷や職場環境は企業努力で改善していても、キャリアへの焦燥感は消失しておらず、むしろ強まっているようにすら感じられます。
就職みらい研究所の調査によると、学生が就職先を確定する際に一番の決め手になったのは、「自らの成長が期待できる」ことでした。
出典:就職みらい研究所
会社を選ぶ際に「自らの成長への期待」を重要視し、「自分がどれだけ成長できそうか」を大事にしている若手社員が多いことを踏まえると、会社はどのように人材育成および成長支援をしていくべきでしょうか。
ここに優秀人材の離職を防ぐカギがあります。
若手社員の離職を防ぎ活躍できる環境づくり
若手社員に「成長できそうだ」と思ってもらえる環境を作るにはどうしたらいいか。ここでは3つお伝えします。
1.真摯に情報を開示する
「配属されてみたら採用時に聞いた話と違っていた」という事態は全力で回避すべきです。
一方でコロナ禍以降は採用面接など学生との接点がオンラインになり、相互理解がより難しくなったと感じられます。
就職白書2021によると、企業側は「社員の人柄や職場の雰囲気が伝えづらくなった」と考えており、学生側も「自分の話が伝わるかどうか」を不安に感じています。
出典:就職みらい研究所
採用時の「言語化や丁寧な対話」は学生の希望と職場のミスマッチを防ぐためにもこだわるべきポイントです。
「人事の方が会社の課題や働き方に関しての改善するべき課題など、良い面だけではなく、悪い面を本音で話してくれたので好印象だった」
「会社の現状や自分が入社してからどんなステップでどんな風にキャリアを積んでいくのかを具体的に話をしてもらえたのでイメージが湧いた」
人事担当者が会社の良い面だけでなくありのままを伝えることによって、採用時のミスマッチは減らせます。ネット上でも情報が得られるだけに、企業からの真摯な情報開示がもつ意味は大きいです。
2.育成・マネジメントのセミオーダー化
ジョブ型採用の広がりにより「就社」から「就職」に代わりつつある中、従来のように新入社員を一括りにするのは現実に合わなくなってきました。その結果増えているのが、育成やマネジメントのセミオーダー化です。
社会人としての基礎知識や基礎スキルについては全社教育で行うが、業務に必要なスキルやマインドの醸成については選択型や公募型にする。あるいは組織ごとに実施するというものです。
※完全に個別ではないので「セミオーダー」としました。
採用時にアセスメントを実施し、個人の特徴に合わせて配属
定期的に1on1を実施
キャリアコンサルタントやメンターを配置
大手企業様でもこのような取り組みが始まっています。優秀人材が入社してくる人気企業だからこそ、若手の早期離職には危機感をもって対応しているのだと思います。
3.会社のビジョンの共有
あなたの想像以上に、若手社員は自分の現在そして未来を想像力豊かに考えています。
所属している組織が何を目的としてどこに向かおうとしているのか。それが自分の成長にどのようにつながっていくのかを客観的に、ある意味とてもドライに見ているのです。
あなたは組織のビジョンを語れていますか?
会社のビジョンは社長が熱く語ってくださるのが一番ですが、一番身近にいる私たちが語り、若手社員個人のビジョンとつないでいくことも必要です。
まとめ
今回は若手の離職を防ぐための人材育成・マネジメントについてお伝えしました。
ダイバーシティ推進・全員活躍を目指す日本においては、転職でいきいきと働けるのではあればそちらの方がいいのかもしれません。
ただ少しのミスマッチ、少しのミスコミュニケーションで優秀な人材が離職していくのはとても残念なことです。
個人の希望と会社が目指す方向を対話を通してつなげていくことが、若手の早期離職を防ぐ手段になると考えています。
▼この記事を書いた人 相羽 知美(あいば ともみ) 「わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所)」 マネージャー/プランナー |
Comments