ワークエンゲージメントとは、簡単にいうと「働きがい」という意味で、厚生労働省も『労働経済白書』などで解説やコラムを掲載するなど、最近注目されている概念です。
なぜこのワークエンゲージメントが注目を浴びているのでしょうか?
本記事では、ワークエンゲージメントを高める意味やメリット、尺度や測定方法などについて解説します。
ワークエンゲージメントを高める方法や、ワークエンゲージメントについて知りたい方におすすめの書籍や論文なども紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
【 目 次 】
メンバーの心身健康の増進
離職率の低下と定着率の向上
生産性とパフォーマンスの向上
組織の活性化、自発性の向上
17種類の質問項目で総合的に判断するUWES
尺度をバーンアウトに絞ったMBI-GSとOLBI
ジョブ・クラフティングの手法を取り入れる
人事評価制度を見直す
職場のコミュニケーション活性化
ワークエンゲージメントにかかわる書籍・論文
厚生労働省も注目するワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントとは、「働きがい」ともいわれ、「やりがいをもって前向きに仕事ができている状態」のことを指します。
ワークエンゲージメントは1990年代からビジネスコンサルタントや学術分野で注目され始め、2002年にオランダのSchaufeli教授らによって概念が確立されました。日本でも、厚生労働省の『令和元年版労働経済の分析』(『労働経済白書』)で、ワークエンゲージメントについての解説が掲載されています。
※参照:厚生労働省『令和元年版労働経済の分析』
厚生労働省の『労働経済白書』によれば、ワークエンゲージメントは「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃った状態を意味します。
ワークエンゲージメントは、特定の時期や対象における状態を示すのではなく、仕事に対して持続的かつ安定的な「活力」「熱意」「没頭」が保たれている状態をいいます。
活力 | 仕事から力を得て生き生きとしている |
熱意 | 仕事に誇りとやりがいを感じている |
没頭 | 仕事に熱心に取り組んでいる |
このため、仕事への認知や心理状態を示すほかの言葉、例えば過度に強迫的に仕事をしなければならないと感じてしまう「ワーカホリック」や、一時的に仕事に熱中して燃え尽きてしまう「バーンアウト」とは区別されるのです。
「活動水準」と「仕事への態度・認知」を用いて、ワーク・エンゲージメントと関連する概念を整理すると以下のようになります。
ワークエンゲージメントを高める意味とメリット
なぜいま、ワークエンゲージメント向上が注目を浴びているのでしょうか。
ワークエンゲージメントを高める意味とメリットには、以下のようなものが考えられます。
メンバーの心身健康の増進
離職率の低下と定着率の向上
生産性とパフォーマンスの向上
組織の活性化、自発性の向上
従来の福利厚生的な概念「ウェルビーイング」は、労働とは対局にあり、企業の経済的効用とはトレードオフの関係にあるという考え方が一般的でした。
これに対し、ワークエンゲージメントは、生産性や労働の質を向上させることにより結果的に企業の業績アップにも貢献する、いわゆる両⽴性(compatibility)をもつ経営戦略として注目されています。
一部の企業を対象とした調査では、ワークエンゲージメントが中央値以上の企業では、中央値未満の企業と比べ、ROE・ROS・ROAすべての面で優位である、との結果が出ています。
ワークエンゲージメントは、労働力不足や社会の多様化に対応し、企業の業績やパフォーマンスを高める新たな経営戦略として注目されているのです。
メンバーの心身健康の増進
ワークエンゲージメント向上により、メンバーのメンタルヘルスの向上が期待できます。
ワークエンゲージメントが高い社員は、仕事におけるストレスや苦痛を感じにくくなります。仕事のストレスが軽減することにより、疲労感が薄れ睡眠の質が向上するなど、私生活での健康状態も良好になると考えられます。
離職率の低下と定着率の向上
ワークエンゲージメント向上には、社員の離職率が低下し定着率が向上するというメリットもあります。
先に紹介した厚生労働省の令和元年『労働経済白書』でも、ワークエンゲージメントのスコアが高い企業は、新入社員などの定着率が高くなっているという調査結果が出ています。ワークエンゲージメントを向上させることで人手不足の企業でも定着率が高まることや、働きやすい職場が実現し、離職率低下に役立つ可能性が指摘されています。
生産性とパフォーマンスの向上
ワークエンゲージメント向上により、社員が活発に業務に取り組むようになるため、企業の生産性とパフォーマンスの向上が期待できます。
厚生労働省の令和元年『労働経済白書』では、労働生産性に影響を与える可能性のあるいくつかの要因を考慮しながら計量分析を行った結果、ワークエンゲージメント・スコアと企業の労働生産性に、正の相関があることが確認されています。
また、ワークエンゲージメントが向上して社員が積極的に業務に取り組むようになると、商品やサービスの質が向上し、顧客の信用度や満足度がアップするというメリットも期待できます。
組織の活性化、自発性の向上
ワークエンゲージメントが向上すると、組織のメンバーはほかのメンバーや組織全体に対してポジティブな感情を持つようになり、コミュニケーションや組織への貢献度も向上して組織が活性化します。
また、ワークエンゲージメントが高いメンバーは、自発的な行動が増えます。業務について自己学習をしたり、業務の質を高める工夫をしたりするようになり、自発性の向上が期待できます。
組織が活性化することで良い組織風土や文化が醸成され、自発性が高まることで新しいアイデアや創造的な活動を生み出すチャンスが拡大するでしょう。
ワークエンゲージメントの測定方法
ワークエンゲージメントを測定する方法にはいくつかの種類があります。
ここでは、総合的に判断する「UWES」と、尺度をバーンアウトに絞った「MBI-GS」と「OLBI」、代表的な3つの測定方法を紹介します。
17種類の質問項目で総合的に判断する「UWES」
「UWES」は、ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale)の略です。ワークエンゲージメントの概念を学術的に確立した、オランダ・ユトレヒト大学のWilmar Schaufeli教授らが提唱し、ワークエンゲージメントを直接的かつ総合的に測定する
最もメジャーな尺度として知られています。
「活力」「熱意」「没頭」の3つの分野に分かれた17項目の質問形式に回答し、仕事に積極的に向かい活力を得ている状態を評価します。(ほかに9項目版、3項目版もあります)
尺度をバーンアウトに絞った「MBI-GS」と「OLBI」
「MBI-GS」と「OLBI」は、ワークエンゲージメントと対照的な概念であるバーンアウトに尺度を絞り、間接的にワークエンゲージメントを測定する方法です。バーンアウトの数値が低ければ、結果的にワークエンゲージメントが高いと判断します。
バーンアウトとは、仕事に熱中し過ぎた結果、疲労状態やうつ状態に陥ってしまうようなネガティブな状態をいいます。
「MBI-GS」(Maslach Burnout Inventory-General Survey)では、疲労感・職場効力感・シニシズムの3つの因子に分けて働く人々のメンタルヘルスを測定します。※
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)は「disengagement(離脱)」と「exhaustion(疲弊)」の2つの因子に分けて肯定的・否定的質問に回答し、過去1ヶ月間の精神的状態を0点から100点で評価する方法です。※※
ワークエンゲージメントを高める方法
ワークエンゲージメントを高める方法として、「個人の資源」と「仕事の資源」の2つの側面から考えるやり方があります。
個人の資源とは、働く個人がモチベーションアップする要因です。例えば、「自分ならできる」という自己効力感やポジティブ思考を持てるように、心理的なストレスを軽減する方法を考えます。
一方、仕事の資源とは、仕事の効率化により仕事へのモチベーションがアップする要因のことです。上司や先輩からの適切なフィードバックやサポート、適切な業務量や裁量権を与えることで、ワークエンゲージメントを高められます。
個人と仕事の資源の両面から、ワークエンゲージメントを高める方法をいくつかご紹介します。
ジョブ・クラフティングの手法を取り入れる
ジョブ・クラフティング(Job Crafting)は、組織のメンバー一人ひとりが仕事に対する認知や行動を変えて、仕事をやりがいのあるものへと変えていくことです。働く人が自らの意志で仕事の意味を問い直し、自分らしい視点や意義を見出すことで、モチベーションやワークエンゲージメントを高めることができます。
ジョブ・クラフティングの手法は、厚生労働省の『令和元年版労働経済の分析』のコラムのなかで、ワークエンゲージメントを高める方法の一つとして紹介されていますので、参考にしてください。
人事評価制度を見直す
ワークエンゲージメントを高めるために、人事評価制度を見直すのも一つの方法です。人事評価制度に納得感がないと社員のモチベーションやワークエンゲージメントを低下させてしまいます。
社員が公正に評価されていると感じられるよう、評価基準や項目を見直し、できるだけポジティブなフィードバックを与えることや、主体的に学んだり育成したりできるような仕組みを整えることなどを検討しましょう。
360度評価やMBOなど、社員のやる気やモチベーションを引き出すための人事評価手法については、以下の記事も参考にしてください。
職場のコミュニケーション活性化
ワークエンゲージメントは良い職場であればあるほど高まります。職場の雰囲気が悪く、閉塞感があると、いくら仕事に前向きに取り組もうと思ってもモチベーションが下がってしまいます。
職場のコミュニケーションを活性化し、メンバーそれぞれが仕事しやすい環境を整えるようにしましょう。職場のメンバー同士に信頼感があれば、仕事に集中しやすくなり、所属する職場に貢献したい気持ちが自然と生まれてきます。
ワークエンゲージメントにかかわる書籍・論文
ワークエンゲージメントを高める方法を知りたい、ワークエンゲージメントについて学びたいという方のために、おすすめの書籍や無料で読める論文を紹介します。
『組織の未来はエンゲージメントで決まる』
著者:新居佳英・松林博文
出版社:英治出版
出版年月日:2018/11/7
著者は、成功報酬型転職メディア『Green』を運営し、2018年6月にわずか50人弱の社員数で東証一部への市場変更を果たした株式会社アトラエの代表取締役である新居佳英氏と、日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)の特別執行役員やグロービス経営大学の組織理論に関する講師をつとめる松林博文氏。スターバックスやザッポスなど世界の成長企業が重要視する「エンゲージメント」とはどのようなものか、実践事例と理論をもとに解説します。
『中小企業も実践できる従業員エンゲージメントの教科書』
著者:志田貴史
出版社:中央経済グループパブリッシング
出版年月日:2023/11/2
著書の志田貴史氏は、上場大手メーカー、経営コンサルタント会社などを経て、日本初となるES・エンゲージメントに専門特化したコンサルティング会社である、株式会社ヒューマンブレークスルーを設立。従業員エンゲージメントについて、星野リゾート、チロルチョコほか10社の事例を織り交ぜ、中小企業が実践できる各種施策をわかりやすく解説します。
『エンゲージメントを高める会社 人的資本経営におけるパフォーマンスマネジメント』
著者:松丘 啓司
出版社:ファーストプレス
出版年月日:2023/4/10
著者の松丘啓司氏は、東京大学法学部を卒業後、大手コンサルティング会社のアクセンチュアに入社し、その後独立。現在では株式会社アジャイルHRの代表取締役をつとめ、『人事評価はもういらない』『1on1マネジメント』などHR関連の著書を多数出版しています。ワークエンゲージメントが高い会社は、新たな知識やスキルの獲得に向けた個の意欲を高め、優秀な人材を惹きつけるとともに、人材の流出を防ぎます。本書では、人的資本経営のキーファクターであるワークエンゲージメントを高める人事・組織マネジメントについて解説しています。
『新版 ワーク・エンゲイジメント』
著者:島津 明人
出版社:労働調査会
出版年月日:2022/3/5
著書の島津明人氏は、臨床心理学・精神保健学・行動科学を専門とする慶應義塾大学総合政策学部教授で、日本における職場のメンタルヘルスやワークエンゲージメントに関する研究の第一人者です。ワークエンゲージメントの入門書である本書は初版が2014年と古く、新版は、初版に引き続き、ポジティブな側面からメンタルヘルス対策に取り組むことで、健康でいきいきと毎日を過ごすためのポイントが、初心者にもわかりやすくまとめられています。
ワークエンゲージメントに関する論文は、いくつか無料公開されているものがありますが、特に上でも紹介している『ワーク・エンゲージメント』の著者である慶應義塾大総合政策学部教授の島津明人氏の論文は網羅的に解説しているものがあり、おすすめです。
【まとめ】ワークエンゲージメントという新しい考え方
ワークエンゲージメントについて、意味や測定方法、高める方法などを解説しました。
ワークエンゲージメントは、従来の社員に対する福利厚生やウェルビーイングをさらに発展させ、企業の業績やパフォーマンスまで向上させる可能性を含んだ新しい考え方です。
ワークエンゲージメントについては、経営者による実践的な書籍のほか、測定方法や尺度など学術分野での論文が数多く公開されていますので、興味のある方は参照してみましょう。
ワークエンゲージメントを高める方法としては、ジョブ・クラフティングや人事評価制度の見直しなど、実践的な組織開発手法が有効です。
弊社では、ワークエンゲージメントを意識した組織開発コンサルティングサービスを提供していますので、ぜひ一度ご相談ください。
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